田原総一朗(たはら・そういちろう) 評論家・ジャーナリスト。1934年、滋賀県彦根市生まれ。早稲田大学文学部卒。JTB、岩波映画製作所、東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストとして活動を開始。著書多数。

気配り人間が社長になると、調整力を強く発揮するから、チャレンジはしない。責任の所在もうやむやになることが多い。そのくせ会議ばかりをやりたがる。役員会議というのは、極端に言えば責任を分散させるためのものだ。同じことばかり話して、何も決まらない、何も変わらない。何かを変えようとしても、えてして堂々巡りになる。1回目の会議はまだしも、2回目の会議も同じ意見の繰り返し。そういうケースが多い。

旧住友銀行(現三井住友銀行)元会長の磯田一郎さん(故人)は、晩年に評判を落としたが、頭取時代に行内の改革を行いたいと考え、そのコンサルティングを何と米系のマッキンゼー(&カンパニー)に頼んだ。大前研一さんが現役だったころだ。

「なぜ、マッキンゼーに頼んだのか」と尋ねると、磯田さんは言った。

「マッキンゼーに負けないアイデアはいっぱいある。だが、やろうとすると周りがうるさい」

銀行に限らないが、頭取や社長を辞めた人が会長や相談役、あるいは顧問という役に就く。そういうOBが経営にやたらに口を挟む。動くものも動かない。ところがマッキンゼー、つまり「アメリカの会社がこう変えろと言っている」というと、役員もOBも文句を言わない。アメリカにコンプレックスを持っているからだ。磯田さんはそれを利用した。

しかもマッキンゼーでは、2回目の会議で前回と同じ意見が出ると「それはもう議論しましたね」と言ってはねつける。だから、会議を重ねると議案がどんどん先に進むという。磯田さんは「住友銀行中興の祖」といわれた人だが、頭取時代の改革を振り返って、「それがよかった」と言っていた。

だが、調整型の経営者にはこれがなかなかできない。日本の企業が持つ構造的な問題と言っていい。だからこの20年間、世界の産業構造がどんどん変化したのに、日本の企業は変われなかった。

(高橋盛男=構成 若杉憲司=撮影)
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