この熱エネルギーの最適な制御についてもしっかりと考慮した仕組みとして、最近では「スマートエネルギーネットワーク」という言葉も徐々に浸透してきている。これは、都市ガスや電気などの大規模なエネルギーネットワークと分散型エネルギー、再生可能エネルギー、そして工場の廃熱などをネットワーク化し、ICTで最適な利用を実現するというもの。該当エリアのエネルギー設備の核として電気と熱の両方を生むコージェネレーションシステムを位置づけ、さらに水素エネルギーの活用も視野に入れているのが特徴だ。
このスマートエネルギーネットワークについては、エリアを絞り込んだ形での実用化の例も見られる。例えば、事業用の建物と近隣の老人ホームを配管でつなぎ太陽熱やコージェネの熱を融通する取り組み、また大型商業施設とスタジアムなどを結びコージェネや太陽熱パネルでつくったエネルギーを融通する取り組みなどだ。当然ながら、熱やお湯の相互融通においては、物理的な距離の近さが有利に働く。相互融通をさらにICTで最適にコントロールできれば、該当エリアのエネルギー効率はグッと高まるはずだ。
“インフラ”としてスマートコミュニティを輸出
ここであらためて、スマートエネルギーネットワークやスマートコミュニティの価値について考えてみると、まず一つには再生可能エネルギー等を最大限活用し、従来型のエネルギーの消費を抑制できるという点がある。当然これが、エネルギー自給率やエネルギーセキュリティの向上につながるし、低炭素社会の実現にも貢献する。また一方で、ライフスタイルやビジネススタイルが快適で利便性の高いものになるというメリットもあるだろう。社会インフラや社会システム全体の効率化は、市民にとっても歓迎すべきものだ。
そして最近では、スマートコミュニティが都市基盤の強化につながるという指摘もなされている。都市部への人口集中はエネルギー需要の増大をもたらすが、一般にそのエネルギーの多くは外部から供給されている。例えば、供給地で災害をはじめ不測の事態が起こった場合、それが都市に大きな影響を与えるわけだ。その点、スマートコミュニティは、“分散型”であり、“ネットワーク”を組んでいることが特徴。万一の際もある程度柔軟に対応できる仕組みが都市の抱えるリスクを軽減するのである。
「都市化」は現在、新興国などでも急速に進行中だ。日本としては、もちろんここに大きなビジネスチャンスを見いだしている。もともと省エネ機器や設備の開発は日本のお家芸だが、単に個別の製品としてではなく、設計、建設から運営、管理まで含めた“インフラ”として、スマートコミュニティを海外に輸出できるかどうか──。これは、「インフラ・システム輸出」を積極的に推進している日本にとって、重要なテーマだ。日本各地で進められるプロジェクトが確かな成果を出していくこと。それは、エネルギーが抱える多様な問題の解決と合わせて、産業振興の面でも大きな意味を持っているのである。