部屋から感じられる「救いのない異常」
平日の昼間、知らない元AV女優から突然電話がかかってきて、「今、暇だったら取材してほしい」と言われて訪ねたことがありました。
今すぐという要望と、声の雰囲気から普通でないことは察しました。教えられた住所はボロボロの老朽木造アパートで、現れた井上沙耶さんは腹部が風船のように膨れあがる異常な太り方をしている女性でした。
つき合っている男性の部屋という家に入ると、あらゆる物が散乱して荒れ尽くしています。風船体型、動物園のような臭い、荒れ尽くした部屋と、すべてが普通ではありませんでした。
抜粋の文章は音声データだけでは、絶対に表現できないものです。
このような場面に遭遇すると、視界に入ったものが目に焼きついています。嫌ならば嫌なほど、五感が刺激されている状態です。その最悪な風景は重要な非言語情報で、文章だからこそ可能な異常の描写は、読者に強烈な印象を与えます。
異常な場所に足を踏み入れたときは、自分がなにを感じたのかを書きます。
文体はドキュメンタリー風を選択しましょう。どういう理由でその家に行くことになって、どうやって最寄り駅に着き、どんな家だったのか、詳細を書き込みます。取材現場に向かう途中から嫌な予兆がして、「異常」に遭遇するわけです。
普通のゴミ屋敷と違ったのは、テレビの画面に亀裂が入っていたことでした。
亀裂の理由は精神的に不安定な井上沙耶さんが「男に対して暴れた」からだと語られました。荒れた部屋は彼女の心象風景であり、部屋の汚れから井上沙耶さんの救いのない異常が導かれました。


