まともな人が誰一人いない
サイコパスの竜太郎と縁を切って、ロリカルト教を潰した○○は、結婚を考えた。そして、歌舞伎町で知り合ったイタリア人のハーフと付き合った。
(筆者注:まともな人が誰一人いない)
「イタリア人はちょっと所属したメイド系のコンカフェの店長。面接に行ったらすぐ採用ってなって気に入られた。その日からご飯行こうとか、家に寄ろうとか、そんな感じになった。イタリアっぽい顔なのでイケメンといえばイケメン。顔立ちは濃い。40代後半でだいぶ年上。あるときから帰っちゃだめみたいになって、そこからほぼ監禁。セックスもたくさんした。ATМに連れて行かされて、お金を盗られるみたいな」
(筆者注:欲望にまみれた世界は、出会いが必ずマイナスに)
――『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社)より
地下アイドル○○の小さなイベントが歌舞伎町で開催され、そこに行ったときの描写です。
短い文章に登場人物がたくさん出てきます。そして、普通の人は誰もいません。ちなみに主役の地下アイドルの名前は○○と伏せました。
筆者が行った時間にはその地下アイドルのファンの男性が数人集い、交流の機会があったので彼らに話を聞くと、全員が童貞でした。彼らは主に40代です。昭和時代から歌舞伎町は遊びと風俗の眠らない繁華街で、40代の童貞が集まるなんてことはありえませんでした。
「最悪」と書かずに最悪を伝える
さらに地下アイドル○○は性的に奔放で、歌舞伎町で知り合った危険な男性と次々と恋愛関係になっていました。恋愛トラブルは必ず警察沙汰になって、○○はとにかく被害に遭遇し続けます。
全員童貞、監禁、サイコパス、ピンク色の泡、警察に連行、イタリア人のハーフ、たくさんのセックス、ATМに連行などなど、強い言葉が積み重なることで「異常さ」が浮かび上がってきます。歌舞伎町は怖い、最悪と書き手が主観を訴えるまでもなく、歌伎町以外の場所でこのような事態になりようがありません。
また、筆者が目撃したこれらの異常がぼったくりバーなどだったら、昔からあることなので想定の範囲内です。楽しい場所であるアイドルのイベントが異常だったことが、令和の歌舞伎町を物語っていました。
筆者は「アイドルのイベント」という特定の場所で相手の話を聞いています。行われていることは秋葉原と変わりはないですが、歌舞伎町独特なもの、秋葉原にはなくて歌舞伎町だから見えることを感じようとアンテナを立てていました。
そうやって集めた情報を、自分が伝えたい方向性を意識しながら書いていきます。歌舞伎町は異常な街というテーマなので、実際にいた人物や飛び交った強い言葉を積み重ねながら、そこが「異常」であることを表現していくのです。

