トランプ大統領が言わなかったこと

橋本氏が「私にとって大きなメッセージでした」と振り返るのは、トランプ大統領が首脳会談で、「国家安全保障上の問題がある」とは言わなかったことだ。

「トランプ大統領は細かく説明しないので少し乱暴に見える面はありますが、『プランB』『プランC』を準備する柔軟性を持った方だと思います。『プランA』しかないのであれば、『CFIUSで結論が出ている』と言えば済む話。首脳会談でのやり取りを聞いて、トランプ大統領が国民や支援者に対してうまく説明できる展開にすれば、まだ可能性があるなと思ったのです」

さまざまな選択肢を検討し、拒否権のある「黄金株」を米政府に付与することで決着した。

齋藤氏は日本製鉄のUSスチール買収について、「ビジネス環境が激変する中で、私はUSスチール買収は、日本企業が参考にすべき先駆的な勝ち筋の一つだとみています」と高く評価する。

「鉄鋼業界では中国メーカーとのデフレ競争を強いられてきましたが、高関税によって、今後はこうしたデフレ競争から守られる。しかも、増加が見込まれる米国の鉄需要を日本製鉄が取り込むことで『規模の経済』や、それに伴う技術革新を追求するための好循環を手にするチャンスを掴んだといえます」

発売中の「文藝春秋」2026年1月号及び、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載した対談記事「USスチール買収と日本の勝ち筋」では、〈今後のUSスチール再建策〉、〈橋本氏が買収を決めた理由の一つとして挙げた若手技術者養成の重要性〉、〈激変する世界秩序において日本企業が成長するためのキーポイント〉などについて語り合っている。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2026年1月号)
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