36時間動き、学生寮で12時間寝る日々

学期がはじまって数週間の時点で、有機化学の授業には行かなくなった。成績はすべて期末試験で決まるのだから、学期末までにすべてを学びさえすればいい。有機化学の授業は録画されていて、科学センターで視聴できる。講義に出席しなくてもそれを見ればいい話だ。

ハーバードにはリーディング期間というすばらしいものがあった。期末試験の勉強のために20日近くもの時間がもらえるのだ。その期間にしっかり準備し、教科書を読んでビデオを見れば、僕のような詰め込みの達人ならなんとかなると賭けた。すさまじい集中力を発揮して自分で学ぶ方法だけは知っていたからだ。

友人たちには極端だと思われても、自分にはしっくりくる日々のリズムに身を委ねた。勉強とプログラミングに取り組み、36時間眠らずにいることもあった。疲れに負けるとウィグA‐11へ戻って12時間以上眠る。服をすべて着たまま眠ることも多く、ときには靴も履きっぱなしで、いつも黄色い電気毛布を顔にかけて日の光を遮っていた。

目を覚ますとジム・ジェンキンスかサムといっしょに何か簡単なものを腹へ詰め込み、場合によってはアンディとジムのところへ立ち寄ってから授業や図書館へ向かったり、エイケン研究所へ戻ったりする。何カ月もこうしたルーティンをくり返した。

「ハーバード大学でいちばん」の記録を樹立

入学したとき、僕はリネン・サービスに申し込んだ。金銭的に余裕のある学生の贅沢だ。週に1度、毎日使うシーツを洗濯ずみの一式と交換してもらえる。1週間分のシーツをもらっていたけれど、あまりにも忙しくて最初の週にそれを出しておくのを忘れた。その後、2週目も過ぎ、3週目と4週目も過ぎていく……6週目ぐらいに自分にうんざりした。シーツは薄汚く、インクとブーツの泥があちこちについている。

洗濯室の人が名簿で僕の名前を調べると、少なくとも1カ月半が経っていた。「すごいな、新記録だぞ!」と笑う彼に僕は汚いシーツを手渡した。立ち去るときにこう思った。“おい、これは立派な成果じゃないか。少なくともひとつ、ハーバードでいちばんになったんだ!”

屋外でベッドシーツを乾燥させる
写真=iStock.com/BitsAndSplits
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学期末が近づきビデオルームへ足を運ぶと、有機化学のクラスメイトたちがたくさんいて驚いた。みんな教科書をひらいて分子のモデルを手に持ち、1学期きちんと出席した講義を録画で復習している。ビデオは理解するのがむずかしかった。ときどき音声が途切れる。画面が真っ黒になり、映像が見えずに教授の言葉が意味不明なところもある。

ビデオを見ていると、クラスメイトたちが一斉にいくつかの白い水素原子と黒い炭素原子を合体させ、これは異性体的に対称なのか、それとも対称的に異性体なのかと話し合っている。

“なんだこりゃ”僕は思った。“もうおしまいだ”

その授業の評価はCだった。大学で取った最低の成績だ。春学期に有機化学の後半は履修しなかった。