ナチス裁判が贖罪を伝える相手とは

予防はどうか。タイピストの女性は戦後、犯罪とは無縁の生活をしていたという。法廷供述からしても、彼女が「再犯」をするとは思えない。残るのは、社会に対する予防だ。二度と、こうした犯罪を引き起こさないために、裁きが必要ということだろうか。

あるいは、未曽有の犯罪を国家として引き起こしたことへの国際社会に対する贖罪しょくざいもあるかもしれない。時効を撤廃し、容疑者がいる限り追い続けることは、民主的国家として再生するという、戦後のドイツ社会の宣言とも取れる。

歴史家でもあるライの答えも、それに近いものだった。「私たちはここで何があったかを伝えなければならないのです」。伝える相手は、ドイツ社会であり、国際社会だという。

そして被害者や遺族にも言及した。「被害者は自分の受けた痛みを決して忘れられない。傷や痛みをずっと抱えて生きている。証言し、被害を認めてもらう機会が必要です」

「働けば自由になる」と記されたザクセンハウゼン強制収容所の門
「働けば自由になる」と記されたザクセンハウゼン強制収容所の門。出典=『終章ナチ・ハンター ナチ犯罪追及 ドイツの80年』(朝日新書)
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