中世なのに近未来の渋谷でダンス
『ロード・オブ・ザ・リング』など海外の映画や『ゲーム・オブ・スローンズ』などの海外ドラマに親しんできた筆者は、実際に『果てしなきスカーレット』を鑑賞し、すんなり作品の世界に入れたし、それらのダークファンタジーの二次創作的な要素を楽しめた。(今回はクジラじゃなくてドラゴンなんだね、北欧だもんね)(なるほど、天と地が逆転しているんだ)(このファサーとした消え方は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』か)など……。
だが、死者の国には、なぜか現代の日本から救命看護師の聖(岡田将生)も迷い込んでくるのだが、彼と出会い、その影響でスカーレットは、大規模再開発が完了した近未来の渋谷駅で自分が歌い踊るというビジョンを見るのだ。
ブルーのワンピースを着て現代人になったスカーレット、聖はダンスが下手という設定なのに、そこでは彼女と一緒に軽快に踊る。背景にはモブ(群衆)としてダンスする現代の人々、ピカピカにきれいになった渋谷駅やスクランブル交差点、まるで広告代理店が作ったプレゼン用の映像のようだった。そこにダメ押しのように細田監督みずから作詞したサンバライクな「祝祭のうた」が流れる。劇場パンフレットによると、ここで細田監督が映像的に狙ったのは「未来感」だという。
これが公開前から物議をかもした。その「未来ビジョン」は予告編第1弾にはなかったが、10月10日から公開された第2弾には登場し、「金曜ロードショー」などでも流れた。それが見た人に激しい違和感を抱かせたのではないか。
「ブレた」細田監督が見放されたか
そして、中世を舞台にしたダークファンタジーをやりたいなら、それはそういう作品として見に行かないでもなかったが、それすらもブレているのかという“失敗作感”が、3連休にシネコンの予約をするとき『果てしなきスカーレット』を選ばせなかったとも考えられる。ちなみに週末の興行成績1位になったのは、同じ11月21日に公開された「寅さん」の山田洋次監督作、倍賞千恵子、木村拓哉共演の『TOKYOタクシー』だった。
また、宣伝が逆効果だったというだけでなく、観客の判断基準は、もっと根本的なところにあるのかもしれない。11月14日に「金曜ロードショー」で放送された『バケモノの子』は世帯視聴率6.1%で、スタジオジブリ作品の放送時よりかなり低かった。細田監督への評価が、過去作の放送でむしろ下がったとも考えられる。細田監督は現在58歳で、もはや若手クリエイターでも中堅でもない。いずれにせよ今こそ、ポスト宮﨑駿と目されてきた人物の真価が問われている。
(初公開日:2025年11月26日)

