細田守監督の地位が危うい

『果てしなきスカーレット』は細田守監督のオリジナルアニメーション長編7作目として公開された(第1作『時をかける少女』には原作小説があるが、漫画・TVアニメからのシリーズではないので含む)。

これまでの興行収入を振り返ると、出世作『時をかける少女』(2006年)が2億6000万円、『サマーウォーズ』(2009年)が16億5000万円。製作会社・スタジオ地図を立ち上げた後は、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)が42億2000万円、『バケモノの子』(2015年)が58億5000万円、『未来のミライ』(2018年)が28億8000万円、『竜とそばかすの姫』(2021年)が66億円(いずれも概算)だった。

ネガキャン以前に客が入らなかった

前作『竜とそばかすの姫』の大ヒット後、4年の制作期間をかけた『果てしなきスカーレット』はネットの感想で酷評されている。いずれも5点中の平均が映画.comでは2.7点、Filmarks(フィルマークス)では2.9点(2025年11月25日時点)。いずれも『竜とそばかすの姫』までは3点を超えており、他のアニメーション作品と見比べても3点を切るというのは異常事態だ。

ただし、『果てしなきスカーレット』は公開初日から映画館に客が入っていなかった。つまり、初日に見た人が駄作という烙印を押し、悪い口コミが広がり、いわゆるネガティブ・キャンペーンの影響で大コケしたというよりは、そもそも人が見に行っていない。「作品の評価」と「興行」はいったん分けて考える必要があると思う。

つまり、細田守は公開前から観客に見放されていたのではないかという悲しい仮説だ。

東宝や日本テレビは大量宣伝をした

なぜ初日や公開直後の3連休に「映画館ガラガラ」という状況になってしまったのか。

まず、公開前の宣伝が功を奏しなかったことが考えられるだろう。細田監督を始め、声の出演の芦田愛菜、岡田将生、大御所俳優や人気声優をズラリとそろえての記者会見、舞台挨拶、TV、YouTubeなどへの露出。製作会社である日本テレビ(スタジオ地図、ソニー・ピクチャーズエンターテインメントと共同)の「金曜ロードショー」枠は11月7日から4週連続で細田監督作を放送している。やれることは全て“いつもどおりに”やったはずだ。

それでも『果てしなきスカーレット』は多くの人に「見たい」と思わせることができなかった。いや、実は、むしろ予告編を始めとする公開前の露出こそが人々の足を映画館から遠のかせたと思われる。

「第82回ヴェネツィア国際映画祭」第9夜。映画『果てしなきスカーレット』レッドカーペット。写真左から岡田将生、芦田愛菜、細田守
写真=©Manuele Mangiarotti/IPA via ZUMA Press/共同通信イメージズ
「第82回ヴェネツィア国際映画祭」第9夜。映画『果てしなきスカーレット』レッドカーペット。写真左から岡田将生、芦田愛菜、細田守