「読める」ために必要な何層ものレベルの前提
ここまででわかるとおり、あるテクストが「読める」ためには、書き手との間で何層ものレベルの前提を共有していなければならない。
まずは同じ言語を共有しているというのが大前提だ。語や文法の知識が一致していなければ、テクストを通じたどんな意思疎通もありえない。
さらには、語の表層的な意味だけでなく、それにまつわる一般的知識も必要だ。クマという語から、その映像を思い浮かべられるだけでなく、「ハチミツが好物だ」という知識の有無が読みの深度を決める。
また、太郎、クマ、ハチミツ、ネコ、ネズミなどを、それぞれ属するジャンルに分類することも、論理的に文意を判断するのに役立っていた。こうした分類から判断へという推論の力も暗黙知の一部である。
たった一文でも、これだけの異なるレベルの前提=暗黙知が必要とされた。


