進歩が見えない産業医面談
私はこの会社の産業医として、Aさんとは毎月面談を行なっています。Aさんは、実家に帰ってからは少し症状が落ち着いたようです。私としては、復職までに彼に、休職に至った過程や原因の分析と、今後の対策を考える振り返りをしてほしく、それを伝えるタイミングを待っているのですが、毎回産業医面談でAさんは上司への不満を述べ、どうやったら異動できるかの質問をするばかりで、なかなか言い出せずに数カ月が経過しています。
休職して3カ月が経った頃、まだ睡眠が安定していないので、睡眠導入剤の内服を検討してはどうかと言ったところ、主治医にも同じことを言われたが、自分に原因がないのにどうして薬を飲まないといけないのかわからない、という返事でした。
異動の可能性を探り続けた結果…
産業医面談の中で私は、休職中は会社のメールを見ないこと、職場の関係者に連絡を取らないこと、異動希望を会社に伝えても「まずは元気になってください」という返事しかもらえないだろうから、今はしないことを伝えていました。しかし、Aさんは私に対しては会社とは連絡を取っていないというものの、人事からの情報では、Aさんは様々な人に連絡をとり、異動の可能性を探っているようでした。
Aさんには、元気になったら一度人事としっかり話し合うことを伝えましたが、私の声は届かないままでした。半年ほど経つと社内では、休職中なのに異動希望であちこちに連絡を取っている社員がいることや、上司の悪口を言いふらしていることがマネジメント層に広まってしまっていました。最初はこの上司の管理能力に懐疑的であった人たちも、次第にこの上司へは同情するようになっていきました。
休職して実家にいる限りは、症状も落ち着いており、日常生活はほぼ問題なく送れているAさんですが、いまだに復職の話は主治医から出ていないようで、このまま自然退職となるまで時間が過ぎてしまうのか、産業医の私は心配しています。

