「やってみると意外に楽しい」は本当だった

嫌だと思うことによって引き起こされるネガティブな感情をやわらげたいなら、やるべきことを先延ばしにするか、さっさとそのことに取りかかるか、どちらかしかない。

とにかく取りかかれば、苦痛はすぐに消える。

さらに苦痛からの解放は、やるべきことに取りかかったことで生じる唯一の効果ではない。他の研究で、やるべきことに取りかかることが、そのこと自体に対する見方を劇的に変えることが指摘されている。

先延ばし研究の第一人者として知られる心理学者のティモシー・ピチル博士(カナダのカールトン大学教授)はこう言っている。

「驚いたことに、やるべきことに取りかかると、それ自体に対する被験者の認識に変化が見られた。月曜日、その課題はストレスのたまる面倒で不快なこととみなされていた。ところが、締め切り日である金曜日の朝、嫌でしかたがなかった課題に取りかかると、彼らの認識は一変した。ストレス、嫌悪感、不快感のレベルが著しく下がったのだ。

実際、多くの被験者は締め切り間際、作業をしているさなかに心境を聞かれると、『やってみると意外と楽しい』『もっと早く取りかかればよかった』『もう少し時間があったら、もっといい出来栄えになっていたと思う』と答えた」

気持ちの「切り替えスイッチ」を手に入れる

いったん取りかかったら、それまで「嫌でしかたがない」という理由で先延ばしにしていたことが、そんなにつらくはないことがわかる。

『科学的根拠で 先延ばしグセをなくす』
ニルス・ソルツゲバー著、弓場隆訳『科学的根拠で 先延ばしグセをなくす』(かんき出版)

先延ばしにしていたことは思っていたほど困難ではなく、面倒でもなく、ストレスのたまるものでもない。それどころか、やってみると意外と楽しくて面白いものだ。つまり、先延ばしグセのある人は思っているほど怠け者でも非生産的でもない。

そのうえ、やるべきことに取り組んで進歩を遂げることができる。進歩を遂げることは気分がいいし、自信がわいてくるし、勢いもついてくる。

取りかかるという小さな行為は波及効果をもたらし、上昇スパイラルを始動させる。いったん取りかかると、苦痛が消え、認識が変わって、ますます勢いがつくのだ。

これはニュートンの第一法則に似ている。すなわち、「静止している物体は静止状態をつづけ、運動している物体は運動をつづける」という慣性の法則だ。

これは「何もしない状態」から「何かをする状態」にスイッチを切り替えるということである。結局、先延ばしを克服するというのは、そういうことだ。

先延ばしグセを改善する最大の秘訣は、切り替えスイッチを入れるのがうまくなることである。すばらしいことに、スイッチの切り替えをするたびにすばやく取りかかれるようになる。

やる気がわかないという問題を克服し、「何もしない状態」から「何かをする状態」にシフトするたびに、それがうまくできるようになる。

面倒なことに取りかかるたびに、心理的抵抗を乗り越えて、気分が乗るかどうかに関係なく、やるべきことをやる勢いをつけることができるのだ。

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