「理論武装」された説明は、意外と脆い
一般的に、プレゼンテーションに最も必要なのは、「客観的な事実やデータに基づいて、相手を論理的に説得する技術」だと思われがちだ。
あなたも、プレゼンテーションにおいてデータの不備や論理的な矛盾を指摘されないよう、「ロジカルチェック」に心血を注いだ経験があるのではないだろうか。
ただ、人間の意思決定や行動原理というのは、私たちが思っている以上に、その人の「主観」に左右されている。そしてそれは、プレゼンテーションという一見「ロジカルファースト」に思えるような場面でも同様だ。
実際、聞き手の多くは、提案内容のロジック以上に、「なんだか面白そう」とか、「いまひとつピンとこない」などといった、主観的な評価を頭の中で行っている。
それゆえ、「ロジックとしては100点満点」の提案が、意外にもあっさりとボツにされたりする。論理的に反論をされるわけではないから、「結局、何がダメだったの?」とモヤモヤが晴れないこともしばしばだ。
「ロジカルな説得力」を強固にしておくことは、確かに重要だろう。ただ、それだけで聞き手の心を動かせるほど、プレゼンテーションは甘くない。
だからこそ、プレゼンテーションでの“勝算”を少しでも高めたいのなら、「徹底的に理論武装すべき」という発想から、「相手の主観に意識を向ける」方向に、思考を切り替えていく必要があるのだ。
ただ、プレゼンテーションで難しいのは、どうしても「話し手側が準備してきたことを、聞き手側に向けて発表する」といった、一方通行的なコミュニケーションになりがちなところだ。
もちろん、「質疑応答の時間」はあるだろうが、ミーティングや1対1の交渉のように、会話の中で互いの主観をすり合わせていくことは難しい。
だからこそ、プレゼンテーションにおいては、次に述べるような「周到な準備」が必要不可欠になる。
プレゼンテーションで押さえるべき「4つの要素」
準備が重要といっても、プレゼンテーションに関する情報をやみくもに集めるのでは効率が悪い。“押さえるべきポイント”をしっかりと見極めることが重要だ。
ここでは、私がBCG時代に実際に使用していた「プレゼンシート」の内容をもとに説明しよう。
プレゼンシートで押さえるべき要素は、次の4つである。
①ファクトの確認
②参加者に何を伝えたいのか?
③達成したいゴール
④聴衆の属性
一つずつ順番に説明していこう。
①ファクトの確認
まずプレゼンテーションについて、「事前にわかっている事実」をここに記入する。具体的には、そのプレゼンテーションの「タイトル」「日時」「場所」「形式」「持ち時間」「出席者」などである。
②参加者に何を伝えたいのか?
次に、今回のプレゼンテーションで「伝えたいメッセージ」を書き出す。ここでは、提案の概要はもちろんのこと、「なぜ、それをする必要があるのか」という目的も明確にしておきたい。聞き手の心を動かすためには、できる限り、この「なぜ」の部分の解像度を高めておくことが重要だ。
③達成したいゴール
プレゼンテーションにおける「成功」とは何か。最も理想的なのは、提案した内容が支持を得て、提案者のアイデアが100パーセント認められることだ。今回の事例であれば、「店舗改善計画」に修正なしでゴーサインをもらうことが、「理想のゴール」となる。
ただしプレゼンテーションにおいて、そうした「100点満点の回答」が1回で得られることは、あまり期待できない。実際にはその中間の「概ね了承」とか、「何点か細部を詰めてくれ」とか、「目の付け所はいいが、ロジックや分析が不十分だからやり直し」といった結論になることが多い。
だからこそ、「必ずしも理想の結果を得ることができるとは限らない」と想定したうえで、「次善の策」や「最低でも達成したいゴール」を考えておくことが重要になる。
プレゼンテーションにおける最悪の結果というのは、「こんなプロジェクト、やる必要がないから却下」と、提案そのものがボツにされることだ。逆に言うと、それさえ回避できれば、次の提案の機会を得られるわけだから、首の皮1枚はつながる。
ゆえに多くの場合、「次の打ち合わせの機会を得ること」を最低限の目標として設定しておくことで、最悪の事態を回避しやすくなる。

