皇位継承問題における自民党総裁選の影響は何か。皇室問題に詳しい宗教学者の島田裕巳さんは「高市早苗総裁は、『皇室典範の問題もきっちりとやってほしい』と副総裁に就任した麻生太郎氏に伝えているが、麻生氏にとって『女性・女系天皇』を容認することは、断じて許されないことである」という――。

麻生氏の副総裁就任は何の予兆か

自由民主党の総裁に高市早苗氏が選ばれた。野党の党首、代表の中にはすでに女性が就任するケースもあったが、自民党の総裁としては初である。高市氏は、今や日本女性初の内閣総理大臣になろうとしている。

高市総裁の就任を後押しした“キングメーカー”が麻生太郎氏であり、早々に副総裁に就任している。麻生氏はすでに85歳だが、現在の自民党の中で圧倒的な存在感を示している。

高市総裁は、麻生氏に副総裁就任を要請した際、「皇室典範の問題もきっちりとやってほしいとお願いした」と語っていた。麻生氏は、前の国会で皇位継承の安定化に向けて与野党協議が行われた際には、与党の代表として野田佳彦立憲民主党代表と非公式に話し合いをする役割を担っていた。

この両者の協議が不調に終わったのは、女性宮家を創設した場合、その配偶者や子どもを皇族とするかどうかで意見が分かれたからである。

麻生氏は、彼らを「皇族にしない」ことを強く主張した。また、戦後に皇籍離脱した旧宮家の人間を「皇族の養子として皇室に迎え入れる」ことも主張した。いわゆる保守派の立場を取ったことになる。

両院議員総会を終え、笑顔を見せる自民党の麻生最高顧問=2025年10月4日午後3時15分、東京・永田町の党本部
写真提供=共同通信社
両院議員総会を終え、笑顔を見せる自民党の麻生最高顧問=2025年10月4日午後3時15分、東京・永田町の党本部

ケタ違いで華麗な麻生氏の家系

麻生氏は、非公式とはいえ、なぜそうした役割を果たしてきたのだろうか。今後もその役割を果たしていく可能性は高い。そこには、麻生氏の属する家系ということが深く関わっている。

政治家の中に世襲議員が数多く含まれていることはよく知られており、その点は批判の対象にもなってきた。総裁選で敗れた小泉進次郎氏が、かつての総理大臣、小泉純一郎氏の次男であることはよく知られている。

しかし、麻生氏の家系となると、その華麗さはケタ違いである。まず母方の祖父は、戦後の日本の復興において中心的な役割を果たした吉田茂元首相である。それも、麻生氏の母親が吉田元首相の三女だからである。その関係で、文芸評論家の吉田健一は麻生氏の伯父にあたる。

さらに曾祖父は、外務、文部、宮内などの大臣を歴任した牧野伸顕のぶあきである。牧野は昭和天皇から厚く信頼されていた。その長女の雪子が吉田元首相の夫人だった。

しかも、牧野の父は明治維新の元勲の一人である大久保利通としみちである。大久保は初代の内務卿で、実質的に最初の内閣総理大臣といえる存在だった。麻生氏にとって大久保は高祖父にあたる。また、麻生氏自身の妻は、鈴木善幸ぜんこう元首相の三女である。