工場長と衝突して強制帰国

1990年12月。念願のタイ赴任に胸を躍らせ、井口はバンコク近郊サムットプラカーン県の工場地帯に降り立った。製造技術を身につけた彼を、会社は「戦力になる」と送り出していた。

日本・タイ・台湾の三社合弁で設立されたタイ工場。現地に到着して、井口は唖然とした。コンクリートの匂いが立ち込める真新しい床に並んでいたのは、見たこともないアメリカ製や韓国製の機械が数台だけ。停電や断水は日常茶飯事で、製造ラインはまともに動いていなかった。

任務は「貿易部門の立ち上げ」。だが商品がなければ話にならない。井口は工具を握り、独断で修理に没頭した。その背中に、日本人工場長の怒声が飛ぶ。