中村の上司だった中村弘治社長は、セミナー後の変化についてこう評価する。
「リーダーシップの考え方は大きく変わったようです。本人が自覚するように中村は部下に厳しい面もありますが、客観的にその人のいいところを引き出してあげようとする目線と行動が、セミナー後には表れてきたと思います」
職場で活かされたのは、部下への接し方だけではない。中村はセミナーの演習で、目下の課題である人材開発のミッション・ステートメントを作成し、職場に戻ってメンバーと話し合った。
「私たちのつくる育成プログラムは、他社と比較できないほどハイレベルであり、グループ企業からセミナー依頼を受けるぐらいのレベルがある。そして、常に人材を育て会社の業績に貢献する」
利害関係者のニーズを見定め、自分たちのあるべき姿を具体的に描いたミッション・ステートメントとなった。
「私自身も含めて、リーダーは支援型にシフトする必要があると感じています。店長同士のコミュニケーションを高め、この時代にふさわしいリーダーシップが広がるようにしたいですね」
会社全体に支援型リーダーシップの連鎖を起こそうと、構想を練っている最中である。上司の中村社長も「営業出身者であり、現場に響く施策を打ち出せる最適任者」と今後に期待する。
目標を達成するためにも、まずは自分が変わり、人事部を変えていく必要がある。大きな変革を生むために、自らトリム・タブ(舵についた仕掛け)となって変化の渦を起こす。中村の姿勢からはその決意がうかがえる。
(文中敬称略)
(文=伊田欣司 撮影=永井 浩)