いい代理人か否かを決めるのは選手

代理人は実際にどんな交渉を行っているのか。ダルを例に取ってみよう。

(AP/AFLO、PANA=写真)

ダルの移籍先の選択肢はポスティング制度で入札したレンジャーズ1球団のみ、交渉期間は30日。FA(フリー・エージェント)と異なり、レンジャーズの支払う金額は、ダルへの報酬に在籍球団(日本ハム)へ支払う移籍金が加わる。その価格形成の手掛かりは、過去の日本からの移籍選手や、同等クラスの選手の報酬金額など。

「米メジャー史でも例がない5年連続の防御率1点台をはじめ、ダルの日本での実績は松坂大輔(レッドソックス)を上回る。松坂の条件(6年・総額5200万ドル、06年末)を上回って当然」

というのが、集めるだけ情報を集めて精査した野村・テレム側の主張だが、レンジャーズ側が当初提示した条件とは大きく隔たっていた。

「『日本ハム側に支払う移籍金もあるから、(年俸に回す分の)予算がない』の一点張り。こちらは『予算額などあなた方が勝手に設定したもの。どうとでもなるでしょう』と応酬した」

年俸の金額をめぐって、交渉は延々と平行線を辿った。野村氏が移籍交渉時に準備する腹案は2通り。「A案がダメならB案」というわけだ。複数の球団と交渉するFAの選手ならもっと多い。しかし、ダルの場合の2案はレンジャーズと契約するか、もしくは日本に残るか。これはダル本人や彼の家族も納得済みだったという。

「双方2人か3人ずつ向き合って交渉した。最後の3日の1日目は数時間交渉してダメ。翌日は昼から夜通し朝3時までやってダメ。最終日もリミットの午後4時(現地時間)まで残り2時間に迫っても、何も決まらなかった」

野村氏とテレム氏は、「この額まで達しなければ、我々は日本に帰る。あなた方はピッチャーを1人損する。どうぞ代わりにフィルダー(レンジャーズが獲得に動いていたメジャー強打者)と契約してください」と、最後まで「松坂より上」に設定した年俸額を主張し続けた。が、実は、事前にそこよりやや低い妥協額を決めていたという。

「僕らは駆け引きはします。ただ、嘘はつかない。後で問題化して結局はマイナスです。嘘をつく人は、ついた嘘の内容を覚えていない。後からそこを突かれ、足元をすくわれる」(野村氏)