目立たず、埋もれず、当たり障りなく、上司とはうまくやっていく……閉塞感漂う中堅・ベテラン社員の処世術。会社に居座り、ぶら下がると決め込んだ彼らの言葉はしかし、思いのほかポジティブだ。

波風立てずに定年を迎えるワザ

「おまえんとこの雑誌ってさ、デキる奴しか出ないよな」―筆者と20年以上の付き合いであるT氏(45歳、大手通信勤務)が呈する苦言?はまあ、ごもっともである。

「もっとさあ……何ていうか、会社で波風を立てずに定年を迎えるワザ、とかそういう記事はやらないの?そういうのを読みたい奴のほうが、ぜってー多いと思うんだけど」

T氏とて頭は結構切れるし、30代半ばで部長に昇進。上層部の評価も高い彼ですら、そんな願望を抱く。

会社生活も後半戦に入り、要領も覚え、いろいろなものが見えてきた結果だろうが、それだけではない。こんなご時勢、昇給も期待できない。でも今さら外に飛び出す気はない。責任取りたくない。切られたくない。目立ちたくない。生活水準は保ちたい。そういう人々が、恐らく今の企業社会の多数派である。彼らの処世術をルポするのも無意味ではない。

無論、エネルギーを内側にばかり向けることを潔しとしない者もいる。広告代理店勤務の並木康司氏(仮名、45歳)は、「最低限の礼儀は尽くしますが、しなくていいゴマすりはしません」ときっぱり。

「それができない僕は、周囲から嫌われていると思います。今会社にいるのは家族4人を養うため。独身ならたぶん辞めていると思う」

隣のセクションの部長が、「同行してほしい」と乞う部下の目の前で、緊急会議への出席を打診してきた役員に「全然、大丈夫ですよ」と即答したのを見たという。

「その役員の誘いなら、そう重要でないものやオフィシャルでないものも含め、何を犠牲にしてでも最優先する人。クライアントとの用事があってもそう。部員はあきらめています。そのうちしっぺ返しがきますよ」