Q1.なぜTPPに参加すべきなのか?

東京大学大学院経済学研究科教授 伊藤元重 いとう・もとしげ●1951年、静岡県生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。米国ロチェスター大学経済学博士号取得。96年より現職。総合研究開発機構(NIRA)理事長も務める。産業構造審議会新産業構造部会部会長など、政府審議会のメンバーとして政策の実践現場でも活躍。著書に『時代の“先” を読む経済学』『ゼミナール 現代経済入門』など。

2つの理由があります。

1つは経済の停滞から脱却するためです。今の日本はひどく内向きです。「少子高齢化で将来は暗い」というイメージが蔓延し、国民も企業も支出を抑え貯蓄に励むばかりです。しかも、そのお金は経済の活性化に結びつく投資には回らず、国債、つまり政府の借金の穴埋めにひたすら使われています。この内向きの悪いスパイラルを脱する最大の鍵は外に向かって国を開き、近隣アジアの活力を取り込むことなのです。

その重要性は日本もよくわかっていて、これまでも、ASEANに日中韓を加えた、いわゆるASEANプラス3における自由貿易協定の締結に尽力してきました。しかし、日中韓の足並みが揃わず、停滞しているのが現状。そこに登場したのがTPPなのです。しかも日本がTPP参加を表明することにより、中国、韓国との貿易交渉が進む可能性もあります。

2つ目は、9.11以降、アフガニスタンやイラクに偏りすぎてしまったアメリカの外交の軸足が、まさにこのアジア太平洋地域に戻ってきたことです。その背景には中国の軍事的脅威があります。これは日本にとっても由々しき問題です。

貿易という点だけではなく、こうした外交・軍事的視点からも、TPPに背を向けるという選択肢は日本にとってありえないと思います。