iPhone以後、イノベーションを起こしていないようにみえるアップル。今後も成長できるのだろうか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「アップルの特徴は競合よりも顧客のプライバシーを重視しているところにある。信頼感や安心感を武器に、ヘルスケア市場を破壊するのではないか」と予測する――。

※本稿は、田中道昭『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。

2018年4月10日、アップルストア新宿(東京・新宿区)写真=時事通信フォト

「プレミアムブランド」として突出している

この記事では、私の専門領域の1つであるマーケティングにおけるブランド論からアップルを分析していきます。

ブランドには、①創業者や経営者のブランディングであるセルフブランディング、②商品・サービスを対象とする商品ブランディング、③企業全体を対象とするコーポレートブランディングがあります。米国メガテック企業4社の共通点としては、コーポレートブランディングに優れているということが挙げられます。

その一方で、当該企業が提供している商品そのものがブランド化しているかどうか、特にプレミアムブランド(通常の商品よりもブランド価値が高く、価格も高めのプレミアムプライシングで販売可能な商品)にまでなっているかどうかということになると、4社の中でもアップルがもっとも優れていると分析されます。

iPhoneの「i」に込められたさまざまな意味

図表1はラダリングというフレームワークでアップルのiPhoneを代表例としてブランディング分析したものです。優れたブランドは、名称から、属性(特徴や実績)、機能価値、情緒価値、ブランド価値に至るまですべての階層で顧客価値に優れています。

Apple iPhoneのブランディング分析(図表=『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』より)

まずブランド名であるiPhoneの「i」にはさまざまな意味が込められています。小文字から始まることで違和感を醸し出し注目させる一方、全体として明快なトーンと発音。そして何より、iには「私」「私の」「自分らしく」という意味やブランド価値までもが込められているのです。

属性では、本人確認としてのフェースID(アップルが開発した顔認証システム)、プラットフォームとしてのアップストア、保有しているデバイス間を同期化させるアイクラウド、スマホとしての各種特徴、そして後で詳しく述べるヘルスケア管理機能などが挙げられます。