家族や会社という「強いつながり」だけでなく、地域や職域という「ゆるいつながり」を取り戻すため、都心を離れた人がいる。渡辺裕子さんは「東京は空気が薄い」と感じ、2017年に鎌倉へ移り住んだ。現在は鎌倉に本社のある面白法人カヤックの広報を務めている。渡辺さんが「人生が変わった」と振り返る鎌倉ぐらしの魅力とは――。
鎌倉に立ち上げた「まちの社員食堂」。土曜夜は一日店長を中心に地元の人が集う。

たまには海でも見ながら仕事がしてみたい

ある日、「なぜ東京にいなければいけないんだっけ?」と思った。きっかけはリモートワークが増えたことだった。

自宅のPCの前で仕事しながら、あれ? と思った。オフィスに毎日行かなくていいなら、どうして高い家賃を払って、都心のマンションの狭いワンルームに住んでいるんだろう? 通勤時間が2時間くらいになっても、自然が豊かで、野菜が新鮮なところで、たまには海でも見ながら仕事した方が楽しいんじゃないか?

そんなことを考えていたら、友人から鎌倉を勧められた。品川駅から鎌倉駅まで電車1本で55分。都内に通勤している人も多い。海と山があり、魚と野菜がうまくて、おいしいお店がたくさんあって、とにかく楽しいよ! と。

「試しに住んでみるといいよ」。鎌倉と都内で2拠点生活している友人が、平日は使っていない鎌倉の家を貸してくれた。スーツケースに仕事道具を詰めて、古い民家でのお試し移住を始めた。朝起きるとウグイスが鳴き、庭にはフキノトウが生えていた。出社する日は鎌倉から通った。

江ノ電の極楽寺駅。ゆったりとした空気が流れている。

「東京は、なんだか空気が薄い」と思った

2週間後、都内の自宅に戻った時、なんだか空気が薄い、と思った。鎌倉は海が近く、湿度も高い。しっとりした空気の中に沈丁花や緑や土の匂いが立ちこめている。注文建築で家を建てる人や、昔ながらの古民家に住む人も多く、住居の一軒一軒にこだわりがのぞく。街全体を覆う湿度、匂い、生活に根づいた美意識のようなもの。そんなものが合わさった空気の濃密さが恋しくなった。その中で呼吸をしたい、と思った。

カヤックという会社が鎌倉に本社を置いていることを思い出した。鎌倉で副業して、月に何万円か稼げれば、憧れの2拠点生活ができるのではあるまいか。そう思って、かねてつきあいのあったカヤック代表の柳澤大輔氏にメッセージを送ってみた。「なんか仕事お手伝いさせてください」。

業務委託で仕事を始めたところ、数月後、気づけば専業になっていた。こうして、リモートワークの場所を探すはずが、ほぼなりゆきで職住近接生活がスタートした。

代官山でトークイベント開催!
「鎌倉資本主義」について語ろう!

登壇者:柳澤大輔(面白法人カヤック代表取締役CEO)、浜田敬子(Business Insider統括編集長)
日時:2019年2月13日(水)19:00~21:00
場所:代官山 蔦屋書店
カヤック代表の柳澤大輔さんと『働く女子と罪悪感』が話題の浜田敬子さんが、鎌倉を題材にこれからの生き方、働き方、稼ぎ方について語り合います。詳細はこちら。