特捜部の精神はどこに消えてしまったのか

もはや特捜部は衰退してしまったのか――。これが「ゴーン再逮捕」後の率直な感想である。

再逮捕の容疑は最初の逮捕と同じ。しかも容疑事実の期間を単に延ばしただけだ。これでは国内外のメディアから批判を受けるのも当然だろう。

「カルロス・ゴーン」という世界的なカリスマ経営者を刑事立件しようとする意気込みは認める。だが、いくら刑罰が倍に引き上げられたからと言って、再逮捕でまたもや報酬が記載されていないというだけの「形式犯」では実に情けない。追起訴で済むはずだ。

カルロス・ゴーン氏が勾留されている東京拘置所。拘置所は全館空調だが、部屋ごとの暖房はないという。(写真=AFP/時事通信フォト)

本来は、脱税(所得税法違反)や特別背任、業務上横領といった「実質犯」で迫るべきである。相手は超大物だ。その相手にも申し訳ない。

かつて東京地検特捜部は、ロッキード事件で今太閤とまで呼ばれた田中角栄元首相を逮捕し、リクルート事件では政・官・財界に切り込み、世論の追い風を受けてときの竹下内閣を総辞職にまで追い込んだ。政治家絡みの数々の事件を贈収賄などの実質犯で立件したのだ。「巨悪は眠らせない」という検察精神はどこに消えてしまったのだろうか。

「8年で計90億円の過少記載」という容疑で勾留

12月10日、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長(64)とグレゴリー・ケリー前代表取締役(62)の2人が東京地検特捜部に再逮捕された。再逮捕の容疑は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)。直近3年分の報酬を約40億円過少に記載したというものだった。

最初の逮捕容疑となった過去5年分約50億円の過少記載については、この日にゴーン前会長を起訴するとともに、法人としての日産も起訴した。これで過少記載の刑事立件総額は8年分で計約90億円となった。

起訴・再逮捕されたゴーン前会長ら2人は「退任後の報酬受領額は確定していない。だから記載の義務はない」と容疑を否認している。