2012年にスタートしたアパレルブランド「ファクトリエ」は、日本の工場と直接契約し、「メイド・イン・ジャパン」の商品をネットだけで販売している。その狙いは工場に技術に見合う利益をもたらすこと。だが当初はどの工場からも門前払いされた。なぜ提案は無視されたのか――。

※本稿は、山田敏夫『ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす「服」革命』(日経BP社)の一部を再編集したものです。

ファクトリエ代表の山田敏夫氏(写真=阿部卓功)

頭の中にはバラ色の世界が広がっていた

世界に誇れる日本発のブランドをつくる――。

工場のすばらしい技術を生かしたオリジナル商品をつくって、インターネットで直接販売しよう。日本各地の工場を回りはじめた当初、僕の頭の中にはバラ色の世界が広がっていました。

「山田さん、工場のためにここまでしてくれてありがとう」
「これで下請けから脱して、やっと経営を立て直せそうだよ」
「あなたの思いに共感します。すぐにでもやりましょう」

僕の話を聞いた工場長たちは、きっとよろこんで、すぐにでも膝をつき合わせて一緒にものづくりを始めてくれるだろう。そんなふうに期待していたのです。

けれど、それは全く甘い考えでした。賛同してくれるどころか、まともに話を聞いてくれる工場さえほとんどなかったのです。

「ダメダメ。うちは下請け仕事を回すだけで手いっぱいなんだから。従業員に給料を払うために、お得意先の言うことを聞くしかないんだよ」
「オリジナル商品って、自分たちでデザインから起こすの? 無理だねぇ。やったことないもん」

取りつく島もない相手の対応に、交渉を断念し、工場の中に足を踏み入れることもなく踵(きびす)を返す。そしてもう一度、最寄り駅まで戻って、公衆電話に置いてある電話帳で調べた番号に電話をかけ、次の訪問先を探す。30回、40回とそれを繰り返し、僕は焦りと不安の中にいました。

「工場に利益を」という提案を拒否された理由

今思えば、工場の拒否反応は当然だったと思います。

ファクトリエのビジネスモデルは、アパレル業界の常識を覆すものであり、工場からすると、タブーに踏み込む挑戦にほかなりません。

これまで工場の受注額(原価)は、「小売価格の20~30%」というのが通例で、アパレルメーカーが「1万円のシャツをつくりたい」と考えた場合、原価は2000~3000円。それを商社などが受注し、工場へ発注します。