前回(http://president.jp/articles/-/14994)、中興の祖である小倉昌男氏の想いを常に意識していると話していたヤマトホールディングス(以下HD)の木川眞会長。同社のビジネスモデルは進化し続けている。そこに小倉氏の想いをどのように継承させるのか。前ヤマト運輸社長山内雅喜氏へのHD社長バトンタッチを果たした木川氏に、同社に息づき続ける「小倉イズム」の真骨頂を引き続き聞いた。

荷物の数は早晩20億個に!

ヤマトホールディングス会長 木川 眞氏

【竹内】過去小倉さんがやったことを思い出すだけではなく、現在の環境下において「小倉さんだったらどうするだろう」と想像するのですね。

【木川】私が進めてきた「バリュー・ネットワーキング」構想は、宅急便一本足打法から脱却しBtoの企業発物流での成長を加速しようという側面があります。かつてヤマト運輸がBtoBを捨てCtoCの宅急便に集中し成長してきた歴史を知る人の中には、複雑な思いを持つ人もいるでしょう。Btoへの再参入は表面的にはCtoCに特化した時の想いに反しているように見えるかもしれません。でも今日の環境下においては、Btoに展開していくことが必要だと思います。

宅急便は個人間(CtoC)から始まり、通販のような企業と個人間(BtoC)に広がっていきました。そこで築いてきたネットワークが、企業間(BtoB)にも活用できるようになってきています。大口のバルクの物流で倉庫に入れ、そこから小出しに運ぶのではなく、最初から最後まで小口で多頻度に運ぶことで、企業がトータルの在庫コストを下げていこうとする時代です。

そうした流れの中で、我々は必然的に企業発物流に軸足を移してきていたのです。次の100年に向け成長していくためには、小倉さんの築いた宅急便の小口配送(toC)の価値を守りつつ、それを企業間物流にも繋げ、さらに付加価値を高めていくことだと考えたのです。

【竹内】現在そして将来の経営環境を考えれば、Btoに事業をシフトすることは、小倉イズムの否定ではなく進化だということですね。

【木川】もう一つ見直す必要があったのは、宅急便のネットワークです。効率的に翌日配達を実現できる運び方は、宅急便の荷物数が年3~4億個の時に最適な仕組みとして確立されたものです。それを我々は40年近く同じ仕組みを踏襲してきました。一方で荷物の数は今や16億個に達し、早晩20億個になるでしょう。

荷物数の増加に合わせ、拠点を増やし、人を増やし、トラックを増やして対応してきました。これまでは効率性を損なうことなく拡大することができたのですが、今後荷物が増えればいずれ限界を迎えます。さらに労働力が減少していく時代。これからは人が採れなくなることを意味します。だから、荷物が増えても、人や車両を比例的に増やさずに対応できる仕組みが必要なのです。

これまでは1日溜めた荷物を夜間一斉に全国のハブ間で輸送し、早朝そこから各配送先に仕分けし、お届けをしていました。全国69カ所の主な支店間で1日1便、遠方も含め相互にトラックを走らせるのは、非効率な面もあったので、とりわけ大都市間では1日1回ではなく多頻度に運ぶよう発想を変えたのです。東京、大阪、名古屋に徹底的に機械化された大規模ターミナルをつくり、それらの間の荷物は集まってきたら五月雨式に流していく。たとえば東京・関東圏向けの荷物は、まとめて「厚木ゲートウェイ」という施設で随時受け入れ各配送先に仕分ける。こうすることで当日配達が可能になり、しかもコストを大幅に下げることができるのです。