一緒にいて辛くなるのなら、距離を取ったほうがいい

もともと親をしっかりお世話してあげるような子どもです。親を傷つけるようなことを言ってしまったという罪悪感は、介護をやらないことの罪悪感の比ではありません。

介護の現場にいたとき、そういう場面をよく目にしましたが、皆さん本当につらそうでした。ですから、親のそばで介護をして、不安や罪悪感をなくそうとすること自体が、もはや違うのではないかと思います。

介護に対して、どれだけ自分たちが頑張って向き合ったとて、不安や罪悪感を拭うことは、決してできません。だとすれば、自分の心と体の健康を保ちながら、どう親を介護したらいいかを考えるべきなのではないでしょうか。

「親のそばにいる」ことで、言わなくてもいいことを口走ってしまい、強い罪悪感にさいなまれたりするくらいなら、逆に一緒にいないほうがいい。年とともに、どんどんいろいろなことができなくなっていく親をそばで見ていて不安が抑えきれず、つらく当たってしまうくらいなら、距離を取ったほうがいい、と私は思います。

「自分の親を虐待する」というケースに発展するおそれも

どういうわけか、多くの子どもは、それまで親と離れて心地良く暮らしていたにもかかわらず、いざ介護となると、昭和のホームドラマのような家族を目指してしまいます。残された時間はそれほど多くはないと考え、たくさん休みを取って、あるいは同居を選択して、親となるべく時間を共有して懸命に支えようとします。

でも、先ほども触れた通り、それで不安が解消されるかというと、むしろ逆です。「うちの親は、これからどうなっていくんだろう」という不安が、どんどんどんどん強くなります。なぜなら、老いは誰にも止められないからです。

どんなに家族が懸命に支えたとしても、転びやすくなるし、記憶力も低下していくものなのです。私が、「親とはなるべく一緒にいないほうがいい」「距離を取ったほうがいい」と言うと、「冷たい」とか「ドライだ」と感じる方もいるようです。

でも、これは私が訪問入浴やデイサービスといった介護の現場をいくつか経験し、子どもが親を虐待するという痛ましい事例をたくさん見てきて辿り着いた結論です。

直接自分で介護しようとするから、介護離職を考えてしまうし、実際に介護した結果、共依存になったり、親を虐待したりしてしまうのです。

写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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