距離を取るからこそ、優しく接することができる

そう考えると、同居というのはやはり難しい。最近も、同居して親を介護している家族から、「自分の感情がコントロールできなくなってしまった」「これまでの親子関係が全部、引っくり返されてしまった」という相談を受けて、家を離れてもらったケースがいくつもありました。

「また、親が怒り出すんじゃないか」とおびえながら、来る日も来る日も親の介護をしていたとしたら、もはや正常な状態ではありません。面倒を見れば見るほど親は弱っていくし、環境が悪くなっていくのでしたら、同居している意味はないでしょう。

なかには金銭的な理由で同居を選ばれている方もいらっしゃいましたが、家賃を払うのと介護離職をした場合のダメージを比べてもらって、家を出ていただいたケースもあります。実際、「離れて、すごく気持ちが落ち着きました」と言う方がとても多いのです。

川内潤『親の介護の「やってはいけない」』(青春新書インテリジェンス)
川内潤『親の介護の「やってはいけない」』(青春新書インテリジェンス)

介護は育児とは異なり、時間の経過とともに支える側の負担はどんどん増えていきますから、だんだん家族の手には負えなくなってきます。でも、子ども夫婦が同居したりしていると、やはり介護のプロの手が入りづらいんです。

一方で、遠距離介護の方は、「自分たちはそばで面倒を見ることができないから」と、早めにケアマネジャーやヘルパーなどとつながって介護サービスを利用します。どちらがいいのでしょうか。

親から離れると、日本人特有の「親の介護は子の務め」という意識が薄まりますから、自分の気持ちに余裕が生まれます。そして、自身の生活が大事にできているからこそ、親にも優しく接することができるようになります。距離を取ることは、介護する家族にとっても、ケアされる本人にとっても大事なことなのです。

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