子供が怒ってしまうのも無理はない
病院で、親の診察に付き添っている息子さん、娘さんの姿をよく見かけますが、何組かは必ずと言っていいほどケンカをしています。
「お父さん、名前呼ばれたの、聞こえてないの?」「お母さん、もっと早く立ち上がれないの?」などと怒鳴り散らしているんです。具合が悪いから、体が動かなくなっているから来ているのに、と見ていて悲しくなります。
でも、そんな思いまでして診察室に入ったかと思うと、3分くらいで出てくる。3分あるかないかの診察のために、子どもは会社を休んで、片道1時間も2時間もかけて、親を病院に連れて来ているんです。それで着いたと思ったら、さらに待ち時間が1時間も2時間もかかる。親に怒鳴り散らしていたとしても、責められないですよね。
「母親の都合で病院を予約してしまって、こっちの仕事の都合はお構いなし。だから、病院に連れて行くのが大変なんですよ」という息子さんや娘さんからの声もよく聞きます。でも、なぜ子どもが親を病院に連れて行かなければいけないのでしょうか。
都合が悪いなら、断ればいいだけの話です。できないなら仕方ない。無理なら、親は友だちに付き添ってもらうかもしれないし、看護師が付き添ってくれる民間サービスを利用することもできるだろうし、そもそも1人で通えないのであれば、訪問診療に切り替えてもいいはずですよね。
意図的に「見ないようにする」のも一つの手
それを、無理してでも親に合わせて付き添ってしまうから、「うちの子は言うことを聞いてくれるから」と勝手に日程を決めて、「あんた、来れるんでしょ⁉」となってしまうわけです。
自分のキャリアを削って、時間とお金をかけて親の病院通いに付き添うのは、一見親孝行に思われるかもしれません。しかしそもそも、たった3分間診察してもらうだけのために病院に行く必要があるのでしょうか。
今日は都合が悪いから付き添えない、ではダメなのでしょうか。もしかしたら、病院に行くことが目的になってしまい、親の症状は少しも改善されていないかもしれませんよね。親の手元や足元が覚束なくなったとしても、「ご本人はなんとかやろうとしているのだから、あまり手を出しすぎるのはよくないですよ」。
私がそう言うと、「じゃあ、もっと我慢しろ、っていうことですか?」と返されるんですが、そうではないんです。親がうまく物が取れなかったり、こぼしそうになったりすれば、見ている子どもは手を差し伸べたくなって当然です。手を貸さずに見ていることはつらい。だから、やっぱりちょっと離れて“見ない”ようにするのが得策です。
そのうえで、自分以外の人にも親の通院や介護に協力してもらえるようなルートを確保するのも、立派な介護です。