「認知症=怒りっぽくなる」と言われているが…
お父さんの記憶がどんどん失われていくのを目の前にすれば、こんなふうに声をかけるのは仕方のないことです。こう書いている私でも、実際に自分の親を前にしたら、同じことをしてしまうでしょう。それが家族の心理だと思います。だったら、目にしないほうがいいのです。
認知症を患うと怒りっぽくなると、よく言われます。脳の構造上、たしかにそれはあるのですが、本人と家族の会話を聞いていると、「怒りっぽいのではなくて、怒らせているんじゃないか?」と思うことがよくあります。
「お父さん、何やってるの⁉ 立ち上がらないでって言ったじゃない」
なんて言われたら、認知症じゃなくたって、「娘のクセに、なんだっ!」って声を荒らげて言い返したくなりますよね。デイサービスで働いていた頃、「家に帰ると、娘にキャンキャン文句を言われるから、ここに泊めてくれないか?」と懇願されたことがあります。
介護施設にいらっしゃることで認知症の症状が落ち着いた、というケースもごまんと見てきました。認知症の方のケアには、専門的な知識や対応が必要です。そのトレーニングを受けていない家族が行動を制限したり、まずい声かけをしたりしてしまうと、症状が悪化する原因になりかねません。
そのうえ、深夜の見守りは肉体的な負担も大きく、共倒れになってしまう危険性もあります。徘徊が頻繁になってきたら、子どもが頑張らず専門家に委ねることが、結果的に親の安全を守ることにつながると思います。
どれだけ頑張って介護をしても不安は解消されない
家族で介護するのはもう限界だ。施設に入ってもらうしかない──こんな話をよく耳にしますが、よくよく考えてみると、おかしくないですか?
なぜ、家族は「もう限界だ」と悲鳴を上げるまで、親の介護を頑張ってしまったのでしょうか。「人間、年をとったらみんなこうなってしまうんだから、仕方がないよね」と思って頑張らなければ、「もう限界だ」とはならなかったはずです。
限界を感じるまで介護に関わってしまったのは、もしかしたら自分の不安を解消したかったからではないですか。つまり、「親のため」と言いながら、結局は「自分のため」の介護になっていたのではありませんか。
でも、子どもがどんなに頑張って介護しても、安心感が得られることはありません。むしろ、不安はどんどん強くなります。親が老いて、いろいろなことが次々とできなくなっていく姿を近くで見ていて、不安がやわらぐ人はいないでしょう。
そして、不安が強くなっていけば、「お母さんを介護しているせいで、私の年収、いくら下がったと思っているの⁉」「お父さんより先に、こっちが倒れそうだわ」などと、言わなくてもいいことを言ってしまいます。
そのあと、「なんてことを言ってしまったんだろう」とすごく後悔するんです。