「自己申告」が積み重なった十数億円

その後、A氏は別室に移動して被害についての詳細を「貸金庫内容確認書」に記入した。この書類では「認識の相違」について記すことになっていた。

警察への被害届のような内容ではない。A氏が貸金庫に入れていたと認識している内容と、実際に中身を確認した内容をそれぞれ書くだけだ。あくまでも「自己申告」である。

写真提供=A氏
A氏は別室に移動して「貸金庫内容確認書」に被害内容を記入。「認識」と「本日確認した内容」を記入した。つまりここに記入するのは「認識の相違」となる

銀行の担当者は「調査をして後でご連絡しますが、時間はかかるのでご了承ください」と説明したという。

こうした「自己申告」の合計が、いまのところ銀行側が発表した被害額「十数億円」なのだろう。A氏はこの数字、被害規模をどう考えているのか。

銀行は被害を補償してくれるのか?

「銀行での確認の際、『警察立ち合いじゃなくていいんですか?』って言ってしまいましたよ。その場で警察が立ち会って被害届を出すものだと思っていましたから。でもそれはなかったんです。被害状況が現状はっきりとわからないのは、自己申告であることも理由でしょう。

もちろん、表に出せないお金を預けていた利用者もいたでしょうから。盗まれたことを報告しない人もいるかもしれません。つまり、『認識の相違』はなかったと。だから到底、十数億円ではすまないでしょうね。また、被害者も60名+αと報道では出ていますが、それ以上にもっといるのではないでしょうか?」

A氏によると、1日何人が貸金庫室に入ったなどの記録はあっても、誰が何を貸金庫から出したか、といったデータは残らないようだ。そのためA氏が窃盗被害に遭ったと証明するには、自己申告以外に元行員の供述など別の証拠が必要になる。

三菱UFJ銀行は被害が特定された顧客から補償を始めていると発表したが、A氏は「補償の話は一切、私に対してはまだ出ていません」と話す。

三菱UFJ銀行のプレスリリース(12月16日付)