本人しか中身が分からない「ブラックボックス」
貸金庫の中身は、原則として利用者本人しか確認できない。ちなみに、三菱UFJ銀行の「貸金庫規定」には、以下の記述がある。
(1)貸金庫には、次に掲げるものを格納することができます。
① 公社債券、株券その他の有価証券
② 預金通帳・証書、契約証書、権利書その他の重要書類
③ 貴金属、宝石その他の貴重品
④ ①から③に掲げるものに準ずると認められるもの
(2)当行は(1)①から④に掲げるものについても、相当の理由があるときは格納をおことわりすることがあります。
(3)危険物や変質、腐敗のおそれがある等、貸金庫の通常の用法による保管に適さないものを格納することはできません。
中に入れてはいけないものが示され、「相当の理由があるときは格納をおことわりすることがあります」とあるが、A氏が貸金庫に預けた際に中身を確認された記憶はない。つまり、銀行は中に何が入っているのかを把握しておらず、A氏しか分からない「ブラックボックス」ということだ。
「ダイヤの指輪とネックレスがなくなっていた」
貸金庫を開けるには、専用のカードと金属の鍵の両方を使う。金庫の中に緑色のケースがあり、そこに預けるものを入れるそうだ。A氏が利用開始からの約20年間で出し入れしたのは数回とのことであった。
「確認作業は、普通に貸金庫を利用する感じで行いました。警察の立ち合いも銀行員の立ち合いもありませんでした。ほかに貸金庫利用者はいましたが、私のように、連絡を受けて被害確認のために来ていた人はいなかったと思います。
金庫の鍵を開けて緑色の箱を出して開けてみたら、預けていたはずの貴金属のうち最も高い価値のダイヤモンドの指輪と時価100万円弱のプラチナのネックレスの2点がなくなっていました。
ダイヤの指輪は曾祖父から代々伝えられてきた形見のようなもので、何十年と大切にしてきたものです。古いものなので鑑定書はありませんが、1億円くらいするんじゃないかと思います。それが、5年ぶりに開けてみたらなかった。しばらく、意識が働きませんでした。あとで、じわじわと盗まれたことの衝撃と精神的な辛さ、悲しい気持ちに襲われました」