“三つの密通”の物語
ただ、すぐに脚本を書き始めるわけではありません。『源氏物語』は昔、漫画で読んだぐらいの知識しかありませんから、一から平安時代のことを勉強し始めました。並行して、私と制作統括の内田ゆきさん、演出の中島さんの3人で会議をし、最終回までの大まかな構成を考えていきました。
大河や朝ドラのような長いドラマは、途中で描くことがなくなるのが一番危険です。そうならないように、まず全48回のうち、このあたりで寛和(かんな)の変がある、一条天皇が即位する、定子が入内する、誰々が死ぬ……などと、わかっている出来事を配置していく。そしてその間のわからない部分を、どういうドラマで繋いで行くか。併せて登場人物のキャラクターも模索しながら、1年の流れを、半年ほど話し合っていましたね。
いつもやっている3カ月の連ドラは、ラストをどう抜けるかを決めずに書き始めることが多いので、後からもっと伏線をはっておけばよかったと思うこともあったりします(笑)。今回の『光る君へ』はラストのイメージは、わりと最初の頃からありました。吉高由里子さん演じる紫式部(まひろ)が、最終回のラストシーンで言う台詞は、この三者会議で早々に決まっていましたね。
まひろが柄本佑さん演じる道長と密通し、賢子という子を産む展開も、重要な議題の一つでした。『源氏物語』には、紫式部が感じた男社会への批判や権力者への批判の眼差しも強く表れていますが、実は、“三つの密通”の物語と捉えることもできるのです。
一つ目は、光源氏が義理の母である藤壺と関係を持つこと。二つ目は、光源氏が正妻に迎えた女三宮が、光源氏の息子の友人の柏木と密通する。その後、光源氏は女三宮と柏木との間にできた子を、我が子として育てることになりますが、この子どもたちの世代でも密通が行われていきます。それならば、「『源氏物語』の作者も密通をしていてもいいのでは」と、考えたのです。
時代考証の倉本一宏先生には最初から最後まで、本当に助けていただきました。しかもドラマの事情も汲んでくださるのです。たとえば、身分の高い人とは御簾(みす)ごしにしか話が出来ないのですが、互いの顔が見えないと、テレビ的には絵にならない。清涼殿で天皇と対面する際は必ず御簾を下ろしていますが、それ以外の場面では、御簾を半分上げたり、時には全部上げてしまうこともありました。それも先生は、「顔が見えないとドラマにならないですよね」と認めてくださいました。
本記事の全文(日本の顔インタビュー「大石 静『ワーカホリックな性格は治らない』」)は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
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