コオロギ事業が「人口削減計画」⁉
しかし翌年1月、この企画に対して突如批判が殺到した。きっかけは不明だが、グリラスがNTT東日本と共同で、食用コオロギの自動飼育を目指す実証実験を始めると発表した時期と重なる。メディアで大きく取り上げられ、注目を集めた結果、2カ月前の給食プロジェクトについて「グリラスは子どもに無理やりコオロギを食べさせた」といった誤った情報がネット上で独り歩きした。
デマは陰謀論と結びつき、さらに悪質化していった。
「コオロギには毒があり、食べると不妊になる」
「国はコオロギ事業に6兆円以上の税金を投入して、人口削減計画を進めている」
渡邉社長は、これらのデマを「ネット上での閲覧数を稼ぐため意図的に生み出されたフェイクニュース」だと断言する。
「たしかに中国の薬学百科全書に『コオロギは妊婦が避けるべきもの』という記述がありますが、妊婦が避けるべき食材なんて、コーヒーや刺し身をはじめ数多くあります。コオロギの毒性は科学的に立証されておらず、アジア諸国では日常的にコオロギを食べている。コオロギ事業に補助金が出ているという事実も一切ありません。まだまだ嫌悪感を抱く人が多い昆虫食が、急にスポットライトを浴びたことで、『裏に何かあるのでは?』という疑心暗鬼が広がっていった。そういう意味でコオロギと陰謀論は相性が良かったのだと思います」
フェイクニュースを信じた人たちからの攻撃は苛烈を極めた。会社の問い合わせフォームには渡邉社長への「死ね」「殺す」といった脅迫文が届き、苦情の電話も鳴りやまなかった。電話口では「有毒物質を売るな」と1時間以上怒鳴られることもあり、精神的に消耗した若いスタッフたちは、一人またひとりと会社を辞めていった。