陰謀論に抗議しなかった理由
同社はウェブサイト上にコオロギの安全性についての公式見解を掲載したり、取引先や付き合いのある同業者に、消費者からの問い合わせへの回答例を示した文書を配ったりするなどの対応を進めた。だが、ウソの情報を拡散するSNSユーザーに対しては、あえて抗議はしなかったという。
「私も科学者の端くれとして、反論したい気持ちは山々でした。でも広報の専門家からは、『陰謀論絡みで炎上した時は、時間とともに収まるのを待つしかない』とアドバイスされました。われわれが正確な情報やデータを出したところで、炎上させている側は一言『ウソだ』と言えば済むわけで、フェアな議論になりようがないということです」(渡邉社長)
実際、炎上は3カ月ほどで落ち着きはじめたが、その余波はあまりに大きかった。
当時のグリラスは、ファミリーマートの一部店舗で商品を販売しはじめ、これから全国に広げていこうという時期だった。大手スーパーからも商品開発のオファーが来ていたが、炎上を機にほぼすべての商談が止まってしまった。「コオロギせんべい」でタッグを組んだ無印良品は「意義のある取り組みをやめてはいけない」と取引を続けてくれたが、食品業界において、一度問題が浮上した商品の取り扱いをすぐに再開させることは難しい。
会社に資産があれば持ちこたえられたかもしれないが、グリラスは19年創業のベンチャー企業。これまで赤字続きで、ファミリーマートでの全国展開を機に一気に黒字に転換するはずだった。あまりにタイミングの悪い炎上騒動により事業拡大がストップしたことで、新規の投資話は吹き飛び、資金調達の道が断たれた。最盛期に50人いたスタッフを泣く泣く5人に減らしてコストカットを図ったが、負債額は1億5339万円まで膨らみ、ついに破産を決断した。