世界に衝撃を与えた母親たちの叫び
2022年、イスラエルの社会学者(博士)オルナ・ドーナトさんによる『母親になって後悔してる』が発売された。「子どもを愛している。それでも母でない人生を想う。」と帯文が付いたこの本に記された母親たちの叫びに、世界中が衝撃を受けることになった。
日本でも大きな反響が寄せられ、その中の“日本の母親たちの声”を取り上げたのが今回紹介する『母親になって後悔してる、といえたなら 語りはじめた日本の女性たち』(新潮社)だ。NHK記者の髙橋歩唯さん、NHKディレクターの依田真由美さんによる、8人の母親たちのインタビューが読める。
育てにくい長男やアレルギーの長女のことを、育児に関わる機会のない夫に相談すると「考えすぎるのは良くない。頭で考えずに母性で考えればいい」と言い切られてしまう“美保さん”や、子どもができた後も希望のキャリアを叶えていく父親と、全てを諦めなければいけない母親である自分にやりきれなさを感じながらも「母親とはそういうものだ」と自分に言い聞かせた“吉川さん”。
10代で交際相手の子どもを妊娠し母親にならざるを得なかった“松田さん”は、自治体の児童福祉課を訪れ、受けられる支援について尋ねると、窓口の男性から「こうなったのはご自身の責任ですよね」と告げられる。
「ファミレスでいつも素うどん」への辛辣なコメント
ネット上でも母親が助けを求める声や漏らす愚痴に世間は非常に厳しい。
10月の終わり、SNSで本書の本文(p88-p89)を引用した、翻訳家でエッセイストの村井理子さんのポストがバズっていた。
#母親になって後悔してるといえたなら」
これに対して、被害者意識が強すぎる、夫とコミュニケーションを取れば済むことだ、親の自覚がなさすぎる、などの辛辣なコメントが嵐のように寄せられていた。
おそらく子育て中の女性と思われるアカウントからも、生理的嫌悪が丸出しとなった拒絶的なコメントが爆発していたのが印象的だ。
一人で育てることになって困っている女性や、自分の食べたいものを言語化したり夫にも要件を伝えたりできないほど自分自身を透明にして「母親」をやっている女性の、ようやく口から出てきたつぶやきにも世間は容赦ない。
ネットを見ているだけでは、「被害者意識をこじらせた自業自得」と叩かれる人たちに一体何があったのかを知ることは難しい。
本書では、彼女たちに起こった出来事が、その視点からじっくりと語られる。何を抱えてきたのかを知った瞬間に、彼女たちを責めるような言葉は体内に引っ込み、「ではどうしたらいいか」という具体的なアイディアが生まれるチャンスにもなるだろう。