覚えようとしていないのですから、その情報を覚えること(記銘)もできなければ、もちろんその先にある、覚えておくこと(保持)、思い出すこと(想起)もできません。

ですから、記憶に苦手意識を持っている人の場合、わたしのような専門家が提唱する記憶術を試すことももちろん有効ですが、それ以前にただ「きちんと覚えようとする」だけでも結果が大きく変わってくるのです。

「新しいものを生み出せる」からこそ、記憶力は重要

この記事を読んでくれているということは、「記憶するのが苦手」だと思っている人のほかに、記憶に重要性を感じている人もいるのでしょう。

では、記憶の重要性とはどんなところにあるのでしょうか? 例えば、資格試験に向けて勉強している人なら、深く考えるまでもなくその重要性を痛感しているはずです。勉強でインプットして記憶したことを、試験においてアウトプットするという力は確かに重要です。

ただ、わたし自身は、インプットしたものをそのままのかたちでアウトプットするだけの能力が記憶力だとしたら、その力の価値は人間にとってそれほど大きくないと考えます。もちろん試験の場では有効かもしれませんが、日常の仕事や生活のなかでは、そんなことはパソコンやスマホなど機械に任せておけばいいからです。

わたしが記憶力に価値を見出すのは、「新しいものを生み出せる」からです。仕事のアイデアにしろ自分なりの考えにしろ、そうした新しいものを生み出せるのは、どんな仕組みによるのでしょうか。

頭のなかが空っぽでは、おそらく何も生み出すことはできないはずです。新しいアイデアや考え、概念といったものは、すでに頭のなかにある知識や情報が、あるとき組み合わさって化学反応を起こし、ポンと生まれてくるのだと思います。

そう考えると、新しいアイデアなどのもととなる知識や情報は、確率論からいっても多いに越したことはありません。だからこそ、特にビジネスパーソンにとって、多くの知識や情報を頭に入れておくための記憶力が重要なのだと思います。

(構成=岩川悟、清家茂樹 図版作成=木村友彦)
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