政治的にはギクシャク、経済関係はまずまず
戦後日本を代表するリアリズム(現実主義)の国際政治学者、高坂正堯(1934~1996)は名著『国際政治』(中公新書、1966年)のなかで、国際関係の捉え方を次のように提案している。
筆者なりに言い換えると、国と国との関係を考える上では、軍事力や安全保障(力の体系)について考えるだけでは不十分で、経済力(利益の体系)や価値観の関係(価値の体系)についても考慮に入れるべきだということだ。
これを日韓関係に応用してみよう。たしかに、政府と政府の関係はギクシャクすることが多い。歴史認識問題が政府間関係にダイレクトに影響する現象はここ10年ほどの日韓関係史を見れば明らかだ。
経済関係はどうか。2021年のレポートを引用すると、「韓国では輸入の10%、輸出の5%、日本では輸出入の5%前後の関係性がある。コロナ禍前ではあるが、訪日外国人数の2位は韓国人、訪韓外国人数の2位は日本人だった」という。
日本による半導体関連物品の輸出規制(2019年7月)はあったものの、輸出入額ではやはりお互いに重要な存在だ。日韓を行き来する観光客も多い。経済的にはまずまずの関係だといえる。
政治ばかり見ていると取りこぼすリアルな関係
最後に、価値観である。これは捉えるのが難しい。国と国のレベルでみると、両国はともに民主主義を奉じる国家であるが、歴史認識では異なる部分も多い。
しかし、大衆文化のレベルでみたらどうだろう。これまで論じてきたように、日本のK-POP人気は高く、韓国の『スラムダンク』人気は熱狂的だ。「小さいころは『ドラゴンボール』と『スラムダンク』を見て育った」という人は、日本にも韓国にもかなりいる。同じ文化を吸収した若者が両国にいるというのは特別なことである。
政治の関係ばかりを見ていると、そのリアルな姿を取りこぼしてしまう。経済と価値観の関係を考えてみると悲観的にならずに済む。日韓の若者たちは、お互いの文化にこの上なく惹かれ合っている。そんなことを確認したaespaのライブ、『スラムダンク』のヒットであった。