コメ農家が赤字でも生産を続ける理由

米価が下がるとコメ生産が維持できなくなるという主張がある。しかし、米価を上げてコメ生産を維持するためにコメ生産を減少させる(減反である)というのは矛盾していると思わないようだ。

また、農業界は、今の米価はコストを賄えないのでもっと米価を上げるべきだと主張する。

そもそも多数を占める1ヘクタール未満の農家のコメ生産はずっと赤字である。赤字なのになぜコメ作を止めないのか? 農家は赤字でも国民のためにコメを生産していると一部の農業経済学者は主張するが、これはウソである。

出典=平成30年農業経営統計調査

1俵当たりコストが1万5000円で生産者米価が5000円だとすると、コメを作れば1万円の赤字となる。コメを作らなければ、2000円の地代を得て町で小売価格8000円の米を買うと、6000円の支出(赤字)で済む。コメを作らない方が得だ。

ここで生産者米価が1万円に引き上げられると、米作りの赤字は5000円に縮小する。町の小売価格も1万3000円に上がる。コメ作りを止めて2000円の地代を得ても、町でコメを買うと1万1000円の支出(赤字)になる。自分でコメを作った方が赤字は少ない。コメ作りの赤字をコメの購入代金と考えれば、スーパーで買うよりもはるかに安く手に入れることができるのだ。

図表=筆者作成

零細農家が赤字でもコメ作りを止めないのは、そのほうが有利だからだ。決して、兼業収入からコメの赤字を補塡ほてんしてまで、国民のためにコメを作っているのではない。さらにコメ農業の赤字を損金算入して給与所得者として納付した税の還付を受ければ、利益が出る。彼らも、我々と同様経済合理的に行動しているのだ。

農家の所得補償は「直接支払い」で行う

米価が市場に任せられていれば、他の農業と同様、零細な農家は農業を止めて、農地を主業農家に貸し出し、地代所得を得ようとするはずだった。米価引上げは、兼業農家の滞留、コメ消費の減退、コメ過剰による減反の実施をもたらし、コメ農業を衰退させた。

アメリカやEUは農家の所得を保護するために、かなり前から価格支持ではなく直接支払いという政府からの交付金に転換している。米価を下げても主業農家に直接支払いをすれば、主業農家だけでなくこれに農地を貸して地代収入を得る兼業農家も利益を得る。財政負担は1500億円くらいですむ。