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独裁国のような「権力の乱用」は許されない

今回の事件は本連載や公式メルマガで取り上げてきたテーマがてんこ盛りです。要点を絞り、復習してみましょう。まずは些末な「周辺的問題点」と本質的な「核心的問題点」を分けて考えるということです。

斎藤知事が高級ガニなどを“おねだり”した話や、エレベーターのドアが閉まり部下を叱責した話などが面白おかしく報道されていますが、こうした個別の話は、「周辺的問題点」にすぎません。高額商品をねだるのは論外としても、知事・市長が社交辞令の範囲で地元特産品を土産にもらうのは珍しくありません。それを批判するなら、全国一律に禁止すればいいでしょう。

また、斎藤知事にまつわる話の出どころの多くが伝聞であることにも注意が必要です。兵庫県議会の百条委員会は県庁職員にアンケートを実施し、約4割が「パワハラ」を、約2割が「おねだり」を見聞きしたと発表しましたが、直接の目撃情報は1%程度。ほとんどが伝聞です。僕の考える「情報の信頼度」だと「信頼度1」の低レベル。裁判でも伝聞は直ちに重視される証拠にはなりません。

では、仮にこれらパワハラ・おねだりの事実のすべてが「真実」だったらどうか。実は仮に本当であっても当人を懲戒免職にできるかといったら、結構微妙です。殴る・蹴るの暴力は犯罪だから別ですが、口頭での叱責の事実があり、それがやりすぎだったという程度なら、せいぜい〈注意〉〈指導〉、あるいは〈減給〉〈停職〉まで。犯罪レベルでないと「懲戒免職」にはなりえません。こうした事例は普通、組織内の人事異動で対応するものです。

それがわかっているから、斎藤知事も辞意を口にすることなく堂々としています。斎藤知事を選挙で後押しした維新の会も、当初は百条委員会の結果を恐れていないようでした。パワハラやおねだり程度では「懲戒免職」にならないことを知っていたからです。

では橋下も同じ意見なのか?

その疑問には「NO」と答えます。「斎藤知事は辞職すべき」が僕の持論です。

言ってることが違うじゃないかと思うかもしれませんが、そうではありません。いま述べた通り、組織人によるパワハラやおねだりは通常は〈人事異動〉による対応をします。が、今回は組織のトップ、それも他人では代替不能の職を務める、選挙で選ばれた知事なのです。組織内において異動する先もない以上、人事異動はありえません。だとすれば、自ら辞めるしかないでしょう。法的な因果関係は不明ですが、この件に関連して県職員が2人も亡くなっています。その点で知事には道義的責任もあると思います。

ただ今回、僕がより深刻な問題だと感じるのは、こうしたパワハラやおねだりではありません。むしろ本質的な問題――「核心的問題点」だと思うのは、人事権を持つ巨大組織のトップが権力を乱用したという点です。

写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi
※写真はイメージです

今回、告発をした元西播磨県民局長を、斎藤知事は第三者調査をやる前に「嘘八百」「公務員失格」と決めつけ、停職3カ月の懲戒処分としました。元局長は、内部告発者を守る「公益通報制度」に則り通報したにもかかわらず、「告発文は噂話をまとめたものだから」と、百条委員会の決定を待たず、一方的に処分を下したのです。元局長はその後、死亡しています。

告発文が「噂話」や「嘘八百」であるかどうかは、告発を受けた知事や副知事本人が判断することではなく、本来なら調査することも許されません。にもかかわらず今回、知事から調査指示を受けた副知事(当時=以下同)は、なんと告発者のパソコンを調査したというのです。告発された当事者たちが告発者を裁くなんて、独裁国家の権力者のやることでしょう。県議会に設置された百条委員会において、知事や副知事が平然と「何も問題がない」「すべて適切だった」と証言する姿には驚きと同時に恐ろしさを感じます。不正の目的なら告発は公益通報にあたらないため、告発を受けた知事・副知事が、この告発は不正の目的だから告発者は保護に値しないと断じているのです。

告発された疑惑の内容についても、副知事は「そんなことはやっていない、虚偽だ」と自分で判断し、知事のパワハラやおねだりについては、知事が否定しているのでその事実はない、と決めつけています。もはや告発の内容を確認するよりも、組織を挙げての作成者捜しに目が向いているのです。