――ご家族も大変だったでしょうね。

それだけじゃありません、昇進試験にも落とされ続けました。学科試験は好成績でとおっているのに、面接で不合格になるんです。30歳のとき面接から帰ったら、警察幹部には珍しく署員から「人格者」と言われていた副署長から、「君はとおらんぞ」って言うんです。私が「今年3回目ですけん、とおるでしょう。学科試験は今まですべったことないですよ」って返したら、「そんなことは関係ない。お前、書いてなかろうが」って言い出したんですよ。

――ニセ領収書のことですか。

そうです。そしてこうも言われました。「お前一人だけ青信号通らせるわけにはいかんのや。全員がやらんことには。組織やろうが」と。それ以来、私は昇進試験を受けるのをやめました。「手を汚さないととおらんのやったら、来年から受けません」ってね。結局、定年退職まで35年間、階級は巡査部長のままでした。これは日本の警察史上最長で、ギネス記録です。

写真=仙波さん提供
20代後半の仙波氏。ニセ領収証づくりを拒否して約5年。出世はあきらめていたという

同期はどんどん出世していく…

――同期が昇進していく中で悔しさはあったのでは。

もちろんです。私より仕事も勉強もできんやつがどんどん昇進し、給料も上がっていく、それは忸怩たるものがありましたね。世間は階級で評価するし、今でもそうですから。でも、退職まで裏金づくりという不正にいっさい手を染めなかったことは、よかったと思っています。裏金で購入された弁当にも手をつけませんでしたからね。

――警察の裏金は、誰にどのくらい配分されるのでしょうか。

私が現職当時の話になりますが、愛媛県で一番大きな松山東署の裏金は年間約2000万円以上でした。署員は300人近くおるんですが、まず、署長が1000万円以上をとり、副署長は300万円以上、課長の中では刑事課長が一番多く配分されます。最低でも毎月20万円ほどです。一番安いのが地域課長で5万円ほどでした。だから、地域課長のポストは一番人気がありませんでした。

――裏金の使い道は何だったのでしょうか。

全部自分の懐に入れて飲み食いしてもいいし、署員の慰労会に使ってもいい。愛人なんかがいる場合は、そっちに全部使う人もいましたね。部下のために裏金を使わない署長・課長は、「ケチ」と言われて部下からの評価が悪かったですね。

裏金の使い道

――裏金がないとそんなに困るんですか。

署長から刑事部長になった同期が、かつて私にこう言ったことがあります。「仙波、わしは署長になったけど、駐在所のほうが手当が多いぞ」と。

つまり、裏金がないと管理職はやっていけないというんです。公務員は今、祝祭日勤務で3万円の手当が出ます。そのほかに、夜勤手当や危険手当、残業手当も完全ではないけれど出る。そうすると、多い月だと手当が15万円超えるんです。