防衛力強化を考えるなら、むしろ「減税」すべき

むしろ、日本の防衛力強化を考えるなら減税政策を用いて防衛産業を振興することが重要だ。具体例を挙げるなら、ウクライナ軍はロシアに対してドローンなどの最新兵器で対抗したが、彼らが実施した施策は国内のドローン製造業者に対する部品輸入関税と消費税の減税であった。ウクライナは戦争に伴う増税を実施してもいるが、それはあくまで総力戦化している現状に対する緊急的な措置だと言えよう。現在の日本は平時であり、優れた防衛産業を育てるための環境づくりをしていくことが望まれる。必要なことは増税ではなく防衛産業に対する減税政策である。民間企業・個人の投資・消費を冷え込ませる増税など愚の骨頂だ。

まして、近年、日本国の税収は毎年のように兆円単位で着実に増加しており、2025年のプライマリーバランスの黒字化すら達成可能になりつつある。税収の伸びは防衛増税の必要額を大幅に上回っている。また、同時並行的に進められている産業振興政策に投入される巨額の予算を転用するだけでも防衛増税がいらないことは明らかだ。親方日の丸で大規模な補助金バラマキや官民ファンドで失敗するくらいなら、防衛産業につぎ込むことで国防力も高めつつ、先端技術開発に活用するほうがよほど望ましい。経済成長や予算組み替えを行うことで、防衛増税という選択肢をとらないことは、まともな国家運営として極めて合理的だと言えよう。

自民党内にも「防衛増税に反対」の声があったが…

昨年は自民党内で、防衛費増額をめぐり増税以外の財源確保策を検討する特命委員会〔委員長・萩生田光一政調会長(当時)〕が防衛増税に反対する声を上げたことで、防衛増税の実施時期の決定はいったん見送られることになった。極めて常識的な判断が行われたことは喜ばしいことだった。

防衛増税反対を主導した萩生田光一氏(写真=Dick Thomas Johnson/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

しかし、防衛増税反対を主導した萩生田議員はすでに政調会長の座を退いており、現在の政調会長である渡海紀三朗は政治改革にこだわりがあるが、防衛増税反対には前任者よりも熱意が欠けるように見える。自民党内の防衛増税反対の声は昨年に比べれば十分に聞こえてこない。

そして、昨年末は与党税制調査会では防衛増税時期の明言は見送りになったものの、今年春先に国会を通過した税制改正法案においては、「令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施する」とした令和6年度税制改正の大綱に基づき、所得税、法人税及びたばこ税について「適当な時期に必要な法制上の措置を講ずる」と明記されている。

つまり、今後、新総裁の鶴の一声で、今年は防衛増税の増税時期がアッサリと決まる状況が続いていることになる。そして、現行法の文言のままであれば、いずれ防衛増税は実行されることになってしまう。このような愚かな増税を回避する方法はあるのか。