抗がん剤の使用は本来、専門家である腫瘍内科医が行うべきです。しかし日本には腫瘍内科医の数が少なく、がんの治療は外科医が行うことが多くなっています。外科医は手術のプロですが、必ずしも抗がん剤のプロではありません。よって、「抗がん剤のやめ時」を正しく理解していないのです。

抗がん剤のやめ時を判断するのが難しい別の理由として、余命がわからないこともあります。よく、医師から「余命宣告を受けた」と言われますが、実は余命というのはせいぜい3分の1程度しか当たりません。つまり、医師だって人間がいつ死ぬかなどわからないのです。余命半年と言われたけれど1年も2年も生きる人がいるのはそのためです。あまり当たらないにもかかわらず、余命宣告を平気でするのはいかがなものかと私は思います。

それよりも重要なことは、病状を理解して予後について話し合うことです。患者は、どれほどがんが進行していても「自分には奇跡が起こって治る」と信じています。もちろん希望を持って前向きに過ごすことは重要ですが、病状に対する正しい理解がなければ、結果として過剰な抗がん剤によって体を痛めつけることになってしまうのです。

標準治療に勝るものはないトンデモ医療に流されるな

がんに対する誤解は過剰診療を生むだけではなく、まったく効果のない「トンデモ医療」にだまされてしまう不幸な結果にもつながります。がんになったときに選択すべき最高の治療法は、保険適用された「標準治療」です。標準治療というと平凡な治療と思う人がいるかもしれませんが、それも大きな誤解です。標準治療こそが、世界中の医師が勧めるベストな治療法です。

なぜなら一つの治療法が保険適用されるまでには、効果があるかどうかが徹底的に調べ抜かれているからです。日本の医療費がこれほど増大して医療費抑制が命題になっている中、国が効果の不確かな治療法に公費を使うはずがありません。保険適用された標準治療は、厳しいプロセスを通過して選ばれた、言ってみればスーパーエリートの治療法と言えるのです。

私が多くの患者を診ていて最も悔しく感じるのは、本当ならば助かるはずの患者がトンデモ医療にだまされた結果、手遅れになってしまうことです。このような患者を見るたびに、トンデモ医療は医療という名を使った詐欺行為だと痛感します。なお、特に教育レベルや収入が高い人ほど怪しいがんの治療法にだまされやすいようです。