カジノを使った資金洗浄の手口

【瀬下】金融機関にサイバー攻撃を仕掛けて資金を奪い取ることに成功したとしても、問題はそれをどうやって現金化するかです。

手嶋龍一・瀬下政行『公安調査庁秘録 日本列島に延びる中露朝の核の影』(中央公論新社)

【手嶋】つまり、第二段階として、金融機関などからどうやって金を引き出して現金化するか。じつはマネーロンダリングが最も難しい。

【瀬下】バングラデシュ中央銀行の事件では、カジノで資金洗浄が行われたとされていますが、預金を引き出すには銀行内部の協力者が必要ですし、カジノに資金を持ち込む人間も必要です。そこで、カジノ研究家の手嶋さんに伺うのですが、カジノではどのように資金洗浄が行われるのでしょうか。

【手嶋】まず、カジノに行ったことがない方に、ごく初歩的な解説から。カジノでは現金をそのまま張ることはあまりありません。通常は、まずカジノの両替所やディーラーに現金を渡してチップに替えてもらいます。この時点で1回目の資金洗浄が行われます。ルーレットやバカラで勝った客は、チップをドル札などで受け取ります。これが二度目の資金洗浄となります。さらに、例えば、中国元を出してルーレットで儲けた客は、各国の規則にもよりますが、ドル紙幣で受け取ることもできますから、ここで通貨を交換する為替取引が行われることになります。

ビニール袋に入った中国元を惜しみなく“すってる”男

【手嶋】次にマネーロンダリングの上級編です。“ジェットセッター”と呼ばれる大口の顧客は、カジノに口座を持っており、常時まとまったお金を預託しておきます。そうした重要顧客には、カジノの側が賭けの資金を貸し付けるなど、様々な便宜を図っています。中国の役人が賄賂で受け取った中国元を海外に持ち出すことは難しい。そのため、敢えてカジノで大負けする。そしてカジノ側との申し合わせで、その何割かをキックバックしてもらい、スイスの銀行の口座に振り込んでもらう。海外で自由に使えるドル資金は極めて貴重ですから。

ビニールの袋に入った高額の中国元を惜しみもなくルーレットやバカラですっても平然としている男を見かけたことがあります。カジノは資金洗浄にずいぶんと使い出があるんですよ。

【瀬下】なるほど。からくりはわかりました。しかし、北朝鮮の人間がカジノに出入りしていては目立ってしまいますから、協力者が必要になります。その分だけコストもかかりますし、リスクも伴います。サイバー攻撃で資金を奪取するのは一瞬ですが、現実の資金として引き出すのはなかなか難しいものですね。

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