憲法学者が指摘する「女性たちの尊厳」

「複合差別下にある女性たちの尊厳が守られなくてはならない」

そう指摘するのは、憲法学者の清末愛砂氏だ。複合差別とは、貧困、人間関係からの孤立などいくつかの要素が絡まって差別の状況が深刻化する状態を意味する。

「近代法は、権利を堂々と主張し、実際にそれを行使することができる強い個人を前提にしています。しかし、現実の社会では、その構成員の誰もがしがらみなく意思を形成できて、それに基づいて自らの権利を主張できるわけではありません。そうであるからこそ、さまざまに脆弱な立場に置かれている人々の尊厳が守られる必要があるのです。

とりわけ、家族にかかわる事項では脆弱性が顕著になりやすいことを受け、憲法24条2項にはこれらの人々への適切な法的救済を導くための個人の尊厳が立法基準として明記されています。その観点から考えると、複合差別の下にある女性たちの尊厳が守られない状況は、憲法24条2項の要求とは乖離しているといえるのではないでしょうか」

憲法24条2項の条文は次の通りだ。

配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない

「被害者」を加罰する社会構造を変えられるか

世界的な#MeToo運動が展開され、組織における性暴力や支配する側から支配される側への性虐待など、立場を弱くされた女性たちの抑圧状況の可視化が進んだ。同じ時期、慈恵病院では孤立出産の当事者や嬰児殺害遺棄事件の被告、内密出産を希望する人たちとの関わりを重ね、妊娠期に極限の孤立に陥った女性の実像を明らかにしてきた。

ゆりかごは、妊娠という不可逆状況に追い込まれた女性を加罰する社会構造の歪みを突きつける。それは私たちの問題なのだ。

検証部会長の安部氏は、ゆりかごの問題を子どもの側から捉える場合でも、女性の側に何が起きているかを検証する必要性はあると強調する。児童虐待に関する法律の変化を踏まえて次のように説明した。

「2000年に施行された児童虐待防止法は虐待の疑いのある親を通告することを義務づける法律です。社会としても虐待する親はけしからんという空気がありました。ところが、時代が流れて2022年に改正された児童福祉法では、親子を支援することによって虐待を防ごうという家族支援の考え方が前面に出ました。

親が子を虐待しないですむように親子を支えていこうというふうに社会が変わってきましたよね。その意味で、預け入れざるを得ない親の支援を考えていくことは、ゆりかごの検証でも必要です」

第7回検証報告書に向けて、今後はメンバー5人でゆりかごの本質を議論するつもりだと、安部氏は挽回を宣言した。だが、熊本市は一貫して匿名性を否定してきた。熊本市との対峙は安部氏に困難を強いるだろう。さらに、7月17日、熊本市の大西一史市長はこども家庭庁に第6回検証報告書を提出し、検証報告書の適切性を強調している。

第7回検証報告書が出される2027年、ゆりかごは20年の節目を迎える。

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