幸福度には生まれながらの格差があるのか

さて、最近、所得以外の親子の類似性に注目した興味深い研究が発表されました。その研究で注目しているのは、「親子の幸福度の類似性」です。具体的には、「幸福度の高い(低い)親の子どもは、同じく幸福度が高く(低く)なるのか」という点を検証しています。

もし幸福度の高い親の子どもも同じく幸福度が高くなる場合、生まれながらにして幸福度の格差が存在していることになります。この点は私たちの人生にも関わっており、非常に重要な論点です。はたして実態はどうなっているのでしょうか。

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親子の幸福度の類似性を計測するうえでの課題

分析を行ったのは、慶應義塾大学の石井加代子特任准教授、賈執孝特任助教、山本勲教授です。この研究は2024年6月に開催されたウェルビーイングに関する国際学会であるInternational Society for Quality-of-Life Studies (ISQOLS)で発表されました(*2)。実は親子の幸福度の類似性はこれまでほぼ分析されておらず、石井特任准教授らの分析が数少ない研究例となります。

ちなみに、このような親子の類似性を検証する場合、大きな問題となるのは、親と子が同じ年齢の時の幸福度のデータを取ることができるのか、という点です。

人は年齢によって直面する状況が大きく異なるため、幸福度も変化していきます。過去の研究によれば、私たちの幸福度は、40代に向かって低下し、平均して48.3歳の時に最低となり、その後、また上昇していきます(*3)。この結果、年齢と幸福度の関係は、ちょうどU字型となるわけです。このため、年齢の違う親子の幸福度の類似性をそのまま計測しても、適切な結果が得られない恐れがあります。

一番理想的なのは、親と子どもが同じ年齢の時の幸福度をそれぞれ計測し、比較する方法でしょう。しかし、かなり長期間にわたって調査を実施する必要があるため、データの収集が非常に大変です。

この課題に対して、石井特任准教授らは幸福度の年齢による変動を統計的手法によってうまく調整しました。この結果、次のような結論が得られました。