2000年代半ばのミニ不動産バブルの崩壊局面では、住宅投資の対GDP比率が4.6%から3.2%まで低下した。2024年1~3月期の住宅投資の対GDP比率は3.6%だが、もし現在が2000年代半ばのミニ不動産バブルの崩壊局面であれば、同比率は今後一段と低下するおそれがある(図表2の細線)。

それでも、現在のマンション市況の調整は深刻ではないと筆者は考えている。その理由は、2000年代半ばのように、REITが過度に買われて価格が急騰するといった局面が生じていないためだ。

前述の東証REIT住宅指数は2010年以降しか公表されていないため、2003年まで遡れる東証REIT指数(住宅以外の不動産を含む)をみると、同指数は2006年から2007年にかけて急激に上昇し、その後2009年の初めごろまで急落している。当時の不動産市場に対する投資家の楽観と悲観が、REITの価格に鮮明に映し出された格好である。

ちなみに東証REIT指数も、同住宅指数と同様に、コロナ禍以降は2021年にピークを付けて以降、徐々に水準を切り下げている(図表2の太線)。

筆者作成

「新築マンション1億円」時代が当たり前になる

コロナ禍以降、REIT市場および住宅投資に過熱感が乏しかったことを踏まえると、現在のマンション価格の調整は比較的軽微にとどまる可能性が高い。

そもそも、2000年半ばのミニ不動産バブルが崩壊した後も、マンション価格は概ね横ばい圏の推移にとどまった。今後についても、マンション価格は現在の高値圏で一進一退の推移が予想される。

過去を見ると、首都圏新築分譲マンション価格と、住宅取得のための標準的な調達可能金額(勤労者世帯の可処分所得の4分の1に貯蓄額と借入可能額を加えた合計)の間には、強い連動性がある。

筆者が、調達可能金額に対するマンション価格の感応度およびタイムラグをもとに推計した、今後のマンション価格の下値メドは「6600万円」である。これは、2024年1月以降の首都圏新築分譲マンション価格である7000万円台よりは低いものの、2022年の平均価格(6288万円)は下回らない水準である。

マンション価格が再び上昇基調を取り戻すためには、家計の所得環境が一段と改善し、かつ貯蓄額や住宅ローン借入可能額が増加することで、住宅取得能力がより高まる必要がある。

所得環境については、2024年の春闘賃上げ交渉が1991年以来33年ぶりの高水準(5.1%)で妥結しており、今後は賃金の上昇が一段と鮮明になる見通しである。貯蓄に関しても、預金金利の引き上げや、株価上昇に伴う値上がり益の発生などを背景に、今後は増加基調が見込まれる。

問題は、住宅ローンである。物価・賃金の上昇を受けて日銀が金融政策を正常化し、「金利のある世界」が実現すると、住宅ローン金利の上昇は避け難い。住宅ローン金利の上昇は、住宅購入世帯の借入可能額の減少要因となる。