2022年の大規模デモで何が変わったのか

──2022年に「女性・命・自由」を掲げた反政府運動(デモ)がイラン全土に広がりました。それ以降も変化しているのでしょうか。

デモ直後は8~9割の女性がスカーフを外して町を歩いていましたが、今その割合は5~6割ほどに低下しています。取締りが再び厳しくなっていますから。外している場合でも、万が一というとき、とっさにかぶれるようにスカーフを首かけておく人がほとんどですね。

それでも、デモの前と比較すればスカーフ強制はかなり緩くなった印象です。

ただし、学校では今もスカーフを着用しています。そうしないと内申書に響くからです。学校ではほぼ100%の着用率だと思います。イランでは、学校の入り口に必ず門番が目を光らせているのです。

彼らに服装などをチェックされます。小学校から大学まで全部同じです。男性もチェックされます。だらしない服装だと門番に止められてしまいます。私も大学に通っていた頃にシャツの第2ボタンまで開けていたことがあるのですが、門番に止められて、第2ボタンは閉めなさいと言われました(笑)。

教育機関はそうしたことが徹底されており、スカーフ文化が残っています。役所などの公的機関に入るときなども、今でもスカーフを付けなければいけません。

イランでは、公的機関ではないショッピングモールやレストラン、カフェなどに入る際にもスカーフをチェックされることがあります。壁にもスカーフ着用を呼びかける警告が貼ってあったりする。このような場所は以前から取締りが緩かったのですが、デモ後はさらに緩くなった印象ですね。

ですから、家の外では、引き続き取締りが厳しい場所が残ってはいるものの、全体としては規制の緩和、なし崩し的なスカーフ自由化が進行していると言ってよいと思います。

写真=iStock.com/CHAO-FENG LIN
※写真はイメージです

女性の敵は女性

──スカーフを着用しない女性を、女性が非難することもあるのですね。「へジャブ女性」という存在は興味深いです。

イスラムの規範を笠に着て権力を振るう女性を「ヘジャブ女性」と言ったりします。本書に登場するアクラム(仮名)のような人ですね。

アクラムさんは政府のイスラム宣伝局幹部で、バシージという民兵組織の関係者です。彼女は「銃を所持する資格も持っている」と言っていました。

旦那も同じような畑を歩んできた人でした。イラン・イラク戦争(1980年~1988年)に参加して、そこで勇敢に戦ったという話も聞きました。シリア内戦(2011年~)ではアサド政権を支持し、その戦争に参加したいと言っていた。アクラム夫婦は体制に忠誠を誓い、自宅以外ではゴリゴリの保守派として振る舞っていました。

ところが、自宅やプライベートな空間では、着るものから言動まで全然違う。着るものはとても露出が高い。

よく言えば、肝っ玉かあちゃん。悪く言えば、品行の悪い人。飲むことを禁じられているお酒の話もするし、最高指導者だったホメイニ師を罵倒したり……。