「昇給」はないが、ベテラン議員は「役職手当」を受けやすい
さらに、地方議員は「副業」ができます。全国市議会議長会の調査(2021年)によると、全市議会議員の53%が兼業しています。新宿区議会でも38人中12人が、医師、税理士、行政書士、会社役員、会社員などさまざまな仕事を兼業しています。私自身も会社経営者を兼業しています。拘束日数が少ないので、一般企業のサラリーマンよりも副業がしやすい状況にあると思います。
「経費」も支給されます。新宿区議会では「政務活動費」として給料とは別に、月15万円が各議員に支給されます。これは資料としての書籍代、政策を有権者に伝えるためのビラの印刷代、区役所の議員控室に配置するソファなどの備品購入代などに使えます。ただし、1円単位で領収書を添付しなければいけませんし、会食の費用はもちろん、生活費などに流用することも許されません。また、使わなかった政務活動費はすべて返還しなくてはいけません。
私は、選挙のときに「政務活動費は1円も使わない」という公約を掲げたので、全額返納しています。ちなみに「政務活動費」は自治体によってばらつきがあります。全国市議会議長会の調査(2021年)によると、政令指定市の65%の市議会が月30万円以上であるのに対し、人口5万人未満の自治体の市議会の約50%は月1万~2万円です。
また、「役職手当」もあります。議員の給料は、初当選議員でも20年以上続けているベテラン議員でも同額で、「昇給」はありません。しかし、「議長」「副議長」「委員長」「副委員長」などの役職では月額報酬が増えます。新宿区議会の場合、議長は32万9000円、委員長は4万7000円が月額報酬に加算されます。これらの役職は議員の互選で決められますが、会派ごとにポストがあらかじめ割り振られていて、当選を重ねたベテラン議員が所属会派から推薦されることが多いので、結局は当選を重ねると「昇給」することになります。
次の選挙で落選すれば、収入はいきなりゼロになる
新宿区の平均世帯年収は534万円ですから、1021万円という新宿区議の年収は相対的に高いと言えますし、労働時間、「経費」、「役職手当」なども含めた待遇も、決して悪くないと考えます。町村を除く、全国の自治体では、その地域の平均世帯年収を大きく超える給料を支払われることがほとんどなので、多くのサラリーマンにとって、地方議員への「転職」は、待遇面で魅力があるのではないでしょうか。
ただし地方議員にはリスクもあります。先ほど、条例で定められた議会や委員会での出席は年間50日程度と書きましたが、残りの315日間なにもしなければ、間違いなく次の選挙で落選します。
そもそも、議会や委員会で政策提言するためには、文献などの資料を読み込む研究時間が必要不可欠です。また、有権者から寄せられた様々な住民相談に対応したり、小学校の入学式やお祭りなどの地域行事に顔を出したり、駅前で街頭演説をして自身の議会活動についての報告をしたりすることにも、多くの時間を地方議員は割くことになります。