「思い切って捨ててみる」のはどうか

私は、既存システムを“思い切って捨ててみる”ことを提案したい。利点は主に二つある。一つが、老朽化システムの有識者に頼らず、ベンダー企業に高額な報酬を支払わずに自社のコア業務を浮き彫りにできる点だ。コア業務とは、平時・有事問わず、止めることができない業務のことである。そしてもう一つが、経営者のリスク管理能力の向上が図れる点にある。

一見思い切った提案のように思われるが、過去スクラッチで構築した既存システムは、SaaS(「Software as a Service」の略称で、「サービスとしてのソフトウェア」を意味する)で代替できるケースが多い。特にノンコア業務は積極的にSaaSへ移行したほうが良い。

また強力な武器として、生成AIを利用する手もあるだろう。日進月歩で進化している生成AIの利活用に踏み切れれば、まさに“デジタル企業”へと変貌するきっかけを掴めるかもしれない。

万が一のときに迅速に対応する方法

加えて、既存システムを“思い切って捨ててみる”とは、システム障害やサイバー攻撃に備える「IT-BCP」の実効性を高めることにもつながる。

各業務の繋がりや関連するシステムを明確にし、仮にシステムが停止した場合にどのようなリスクが存在するのかを確認した上で、局所的にBCP訓練を実施する。徐々に範囲を拡げながらこの活動を繰り返せば、システム障害発生時におけるシステム停止期間が明らかになり、障害発生後の対処も迅速に行うことができるだろう。

柴山治『日本型デジタル戦略 暗黙の枠組みを破壊して未来を創造する』(クロスメディア・パブリッシング)

したがって、十把一絡げに老朽化した巨大な基幹システムを刷新するということではなく、業務単位にシステムを切り分け、刷新することができれば、レポートで予測されている経済損失を極小化できるのではなかろうか。

既存システムを“思い切って捨ててみる”ということは、老朽化システムからの脱却が図れることを意味し、デジタル変革を進められる“デジタル企業”に変貌できる術だと私は考えている。

「2025年の崖」はもう目前まで迫っている。経営者には思い切った経営判断が求められる。このまま足踏み状態が続けば、日本経済は年間12兆円以上の経済損失を招くことになるだろう。「2025年の崖」を飛び越えるためにも、各社の対応が急がれる。

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