大手企業のシステム障害が相次いでいる。『日本型デジタル戦略』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でデジタル戦略プランナーの柴山治さんは「経済産業省は日本企業が“デジタル企業”になるためにIT人材の平均年収倍増などを目標に掲げているが、現実は厳しい」という――。
2025年の崖を登る人
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プッチンプリンが店頭から消えた理由

今年4月、「プッチンプリン」がスーパーマーケットなどの店頭から姿を消したと話題になった。同月3日、基幹システムを切り替えた際に大規模なシステム障害が起き、「カフェオーレ」「朝食りんごヨーグルト」など江崎グリコの看板商品が出荷停止に追い込まれたのだ。

当初、5月中旬の出荷再開を目指していたが、現在も出荷停止状態が続いている(※)。この影響で、当初業績予想より売上高が200億円程度減少するとされており、損失額はさらに拡大する可能性がある。

※一部の商品の出荷を6月25日以降、順次再開すると6月11日に発表

コロナ禍で露呈したように、日本企業のデジタル化は大きく後れを取っている。江崎グリコに限らず、多くの企業が同じような騒動を起こすリスクを抱えているのだ。

システムの老朽化や肥大化・複雑化が解消されない場合、システムがブラックボックス化し、大規模システム障害のリスクが高まる。そして、2025年には最大で年間12兆円の経済損失が生じるかもしれない――。

この経済損失の予測は、経済産業省が2018年に発行した「DXレポート」で指摘したもので、「2025年の崖」と呼ばれている。

レポート発行から約6年が経過したのに、いまだに問題が解消されていないのはなぜだろうか。本記事では、「2025年の崖」の課題と、日本企業を“デジタル企業”に変貌させる方法について考えてみたい。

目標は「IT人材の平均年収を倍増」

経済産業省のレポートは2018年の初版発行以降、複数回にわたり更新を重ね、DX推進における課題と対策に関する具体化を進めてきた。

初版レポートの中で示された「DX実現シナリオ」によると、次の5つを目標とし、あらゆるユーザ企業が“デジタル企業”に変貌することが掲げられている。

①守りの投資(既存システム維持費用)を60%に低減し、40%を攻めの投資(新たなデジタル技術の活用による収益向上)に充てる
②システムリリース期間を圧倒的に短縮する
③ユーザ企業のIT人材比率を欧州並みの5割に引き上げる
④IT人材の平均年収(600万円)を倍増し、米国並みとする
⑤IT産業の年平均成長率1%を6%(現在の6倍)とする