設備投資の遅れが経済全体の足を引っ張る

先端分野の半導体の製造能力は、AIの性能向上に決定的インパクトを与える。AI分野の成長加速が、その国の経済の実力(潜在成長率)に大きく影響する。政府保証という形式でのラピダス支援の拡充は自然な流れといえるだろう。

現在、世界のAIチップ供給面では台湾積体電路製造(TSMC)の独走状態だ。台湾は、中国の圧力強化という地政学リスクの上昇にも直面している。日米欧にとって、先端チップ製造能力強化とリスク分散は重要だ。

主要企業の設備投資タイミングが遅れると、経済全体の成長率は鈍化するかもしれない。その遅れを防ぐため、わが国の政府はラピダス向けの融資を保証し、リスクマネーの供給を増やそうとしている。戦略物資、中でも重要度の高い先端チップメーカーの成長を政府がバックアップする意義は従来に増して高まっている。

ラピダスの資金力を考えても、政府保証は必要だろう。同社の資本金は73億円で、トヨタ自動車などが出資した。政府は最大9200億円の支援を決めたが、民間金融機関の融資はまとまっていないようだ。

現時点で生産などの実績はなく、ラピダスの信用審査を行うにもデータがない。大規模に融資を実行することは難しい。政府保証は、民間金融機関が融資を行い、ラピダスが計画通り製造能力を発揮するため必須といえる。

TSMC、サムスンも官民の支援で急成長を遂げた

TSMCの成長を見ても、公的な支援強化は重要だ。1970年代、台湾は“集積回路計画”の下、日米から半導体製造技術などを移転した。

1987年以降、当局は半導体メーカーの設立を主導した。主な企業が、TSMC、モーセル・バイテリック、華邦電子(ウィンボンド)、世界先進積体電路(バンガード・インターナショナル・セミコンダクター)などだ。TSMCは政府の支援の下で毎年数兆円規模の設備投資を行ってきた。高価格帯の先端チップの製造能力を強化し、フリーキャッシュフローは増えた。それが、追加の設備投資、研究開発を可能にしている。

韓国も半導体分野の支援を強化してきた。特に、1997年のアジア通貨危機後、金大中政権(当時)は現代電子とLG半導体の合併を主導し、現在のSKハイニックスの前身企業が誕生した。韓国政府は大手銀行に半導体分野への投融資積み増しも求め、サムスン電子とSKハイニックスは急成長した。

ラピダスの量産開始、早期の株式上場、大規模な設備投資を支える経営体力強化のため、公的支援拡充は必要とみられる。今回の政府保証の付与方針は、そうした政策運営の兆候と考えられる。